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続編的番外編

x-27・変われないままの部分

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 彼女との通信で分かったのは、どうやらディルのあの態度が、リリフェステの、少なくともあの女性大公の意向とは関係がないのだろうということ。
 また、監視というのもも違ってはいなかったのだろうということぐらいだった。
 むしろいっそディル1人の暴走と言ってしまってもいいものなのだろう。
 そうなると彼女は異母兄の手綱を取れなかったとはいえ、彼の行動により迷惑を被ったようなもので、いっそ気の毒と思えなくもなかった。
 俺が彼女と話している間中、口を挟まず黙って聞いていたラルは、まだあと数日、ディルが近くにいることを許すかのような俺の判断に、何とも言えない顔をしていたが、反対はせずに諦め、溜め息一つで言いたいことは飲み込んだようでもあった。
 結局許容してくれるラルに、甘えるような形となってしまい、申し訳なく思う部分もあるが、俺は自分の判断が間違っていたとも思わない。
 それはきっとラルも同じはずだ。

「ま、こっちから何か言ったらめんどくさそうだってのは確かだったしね」

 肩を竦めるラルに俺は小さく苦く笑う。
 ただでさえ言い争いが絶えない状況なのだ。
 言い争いの材料は、少しでも少ない方がいいだろう。

「ラルにはまだ少し嫌な気分のまま居てもらうことになってしまうけど……」

 謝る俺に、ラルは首を横に振る。

「いいよ、構わない。僕より、フィリスの方が嫌な思いをしているんじゃないの?」

 ディルが良くない言い方をする対象は、何故か決まって俺だった。
 言い争いをしているのはラルなのに、ラルを対象とすること決してではないのだ。
 いっそ一途かと思うほどに、俺だけに標的を絞っている。
 いったいディルをそうさせてしまうだけの何があるというのか。
 俺には心当たりなんて本当にない、ただ。

「いや、俺は別に、あれぐらいは……」

 むしろ何を言われているのかも逐一全然覚えていないし、気にもしていなければ関心もない。

「フィリス……そういうのは、」
「あー、わかってる、ああ、でも、心当たりもないし、見当違いだし、何よりあいつ言ってることって結局、俺の見た目に関してばかりだろ?」

 あるいは俺の立場だとか出自だとか。
 どうやらディルは、そんなものが気に入らないらしいということぐらい、俺も一応把握している。
 俺の出自。
 多分、俺の見た目が関係しているという所からして、父の方ではなく、俺が母の息子だということ。
 つまりディルがこだわって嫌悪を向けているのは、俺ではなく、俺の母なのではないかと途中から俺はひっそりと思っていた。
 ならば色々と納得できることもある。
 そうでもなければ、何故、それまで接点も何もなく、会ったばかりだった俺があれほど嫌悪を向けられたのか、まったく理由が思い当たらなかったのだ。

(そもそも見た目が好みじゃない、とかはありそうだが……)

 それだけと考えるにはあまりに執拗だったのも本当の話。
 ラルは元から、俺が誰かに悪く言われるのも嫌いなら、俺がそれを許容しているのも我慢ならないようだった。
 ディルの数々の発言など、許せるわけもないのだろう。
 眉を顰めるラルに、俺も小さく肩を竦める。仕方がない、そう告げる代わりに。

「でも、僕はやっぱりフィリスに、あんな態度を許容して欲しくないよ」

 怒りを覚えておかしくないのだ、向けられた悪意を当然のように受け止めないで欲しい。
 それは出会った初めからラルに言われていたことで、俺がいまだに改善できていないところだった。
 胸が痛む。
 ラルにこんな顔はさせたくない。でも、自分が自分を大切に思えないままなのも事実。

「ごめん……」
「謝って欲しいんじゃなくて、」

 こればかりは根が深い。
 それはラルもわかっているのだろう。
 大きく深く溜め息を吐いたラルは、まるで何かに縋るように俺に手を伸ばし。抱きしめられる。成れたあたたかい体温。
 少しだけほっとした。

「何度も言うけどね。僕は……ディーウィやオーシュ、子供達だって、君のことが大切なんだよ。だから、君にも君のことを大切にしてほしい。あんな悪意を、当然の顔をして受け流さないで欲しい。フィリス。お願いだ」

 ラルにこうして縋られるのは、出会ってすぐの頃から変わらない。
 あれから10年。否、もうそろそろ11年になる。
 それだけ経っているのにいまだ変われないままの自分がなんだか申し訳なくて。

「ちゃんと、気を付けるから……」

 そう応えることしか出来なくて。

「うん。気を付けて」

 ラルはそんな俺を、ただいつも通り、包み込んでくれるばかりだった。
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