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続編的番外編
x-25・大公との通信①
しおりを挟む特にディルと遭遇したりもしなかったらしい。
通信用魔導具も、すぐに借りられたようで、程なくして戻ってきたディルから魔道具を受け取った俺は、さっそくリリフェステの大公邸を呼びだした。
特性上、呼び出し先の近くに魔力を流せるものがいないと、呼び出すだけでつながりはしないのだが、幸いあちらの通信機の近くには人が待機していたらしく、すぐに応答してもらうことが出来た。
大公への取り次ぎも、特に問題もなく行われる。
通信用魔導具越しに見た女性大公は、先日挨拶を交わした時と何も変わった様子を見せなかった。
『ご無沙汰しております、フィリス様。無事にお着きになられたのですね』
「ええ、おかげさまで、問題なく着きました」
『ディルのご案内がお役に立っていればよいのですけど……』
全く役に立たなかったに等しいとは、流石に口に出さずにおいた。
俺に向けて、にこと柔らかく笑むその顔には、作意などはどこにも見当たらない。
だが、ディルを紹介して、同行させるよう告げてきたのはこの人なのだ。
表情だけで為人を判断するのはあまりに早計というものなのだろう。
当たり前の話、この人と化かし合いがしたいわけではない。ひとまずと、聞きたいことを先に聞いてしまう。
「それより、その貴方の兄君なのですが、彼はいつまで我々に同行する予定となっているのか。そちらではどういった認識でいらっしゃいますか?」
要はいつまで一緒にいればいいのか、ということだ。
なにせそもそもディルを差し出してきた時に告げられたのは護衛と道案内。
目的地とも言えるこの街へ着いた以上、ディルの護衛はもう必要ないと言えた。
元より帰りは国家間転移施設を使う予定でいて、それは彼女にも伝えている。
だから、より、護衛はもう必要ないのである。
俺の告げた意味は正しく彼女に伝わったのだろう、女性大公は、少し、戸惑ったような様子を見せた。
『あの……それはまさか、あの者がそちらで粗相を?』
それは大変申し訳ないことをしたとでも言わんばかりの彼女の様子に、俺は緩く首を横に振った。
「いや、そういうわけではないんだが……」
むしろ粗相どころの話ではない。
俺としてはてっきり、監視も兼ねていると思っていたのに、その割には当人の態度が悪すぎた。
それも含めて、一度この女性に確認しておきたかったのだけれど。
よく意味が理解できないと小さく首を傾げる彼女の様子に、嘘や誤魔化しがあるようには見えなかった。
ならディルのあの態度は彼女の知る所ではないということなのだろうか。
しばし迷う。迷う、が、隠すようなことでもないかと開き直った。
「どうやら俺は、彼に嫌われているようで……彼は余程、正直な者のようだ。だが、それでこちらの者と……少し、な……」
言葉は濁したが、これはつまり、俺を嫌っているようでそれが態度で出ている、どういうことなのかと問い詰めているに等しい。
すると本当に彼女は何も知らなかったのだろう、さっと顔色を青くした。
『っ! まさかそんな……それは、本当に……いったい何とお詫び申し上げればよいか……』
慌てたような、焦ったような気配が伝わってくる。
ならばこれ以上、彼の態度についてを彼女に教えない方がいいかと判断した。
「いや、構わない。構わないん、だが……」
とは言え流石に、これ以上共に過ごすのは難しい。
言外に含ませた意味を違えず汲み取ったのだろう、彼女は小さく頷いている。
『申し訳ございません。重ね重ね、こちらの不手際です。お役に立てていないようでしたらそのまま、放逐なさってくださいませ。元より冒険者として身を立てている者でもありますから、多少乱暴な扱いをしたところで問題ございませんわ』
むしろ、どのように扱ってくれても構わないとまで言いそうな彼女の様子に、俺と父のすることを把握しておきたくての人選ではなかったのだろうかと内心で首を傾げた。
否、どう考えても、その意図がなかったとは思えない。
なら、それよりも俺への不敬の方が問題だと判断したのか。
多分、それが正しいのだろう、俺は慌てる彼女からそう判断し、頷くことしか出来なかった。
「なら、もう共にいる必要はないと?」
一応、確認の意味も込めてもう一度念を押すようにそう訊ねる。
彼女ははっきりと首肯した。
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