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続編的番外編
x-24・この後の予定
しおりを挟む「それで、お父君にところへはいつ?」
ラルがそう訊ねてきたのは、とりあえずと宿の部屋へ入り、荷物を下ろし、旅装を解いてからのことだった。
子供たちは侍女とオーシュ、ディーウィが見てくれているので二人きり。
そもそもこの部屋は、途中の宿のような続き間などではなく、完全な個室にしてあった。
泊まる期間が長いためである。
その代わりそこまで広くはなく、広いベッドが一つだけ置かれている寝室と、居間のような部屋の二間しかない。
ラルのような公爵家当主が泊まると思うと質素すぎるが、ラルも俺もそう言ったことにはこだわりがなかった。
ここでは社交の予定もないし、居間のようになっている部屋は、それでもそれなりの広さはあり、子供達と共に過ごす程度なら問題はなさそうで、ならばそれで充分だと思う。
荷解きそのものは侍女の仕事だ。
自分たちの身の回りのこまごまとした物だけを整理した。
一息吐こうかとソファに腰かけた途端、掛けられた声に、俺はちらとラルを見た。
何を考えているのかよくわからないにこにこした顔をしているが、それはつまりいつも通りということだ。
母への挨拶を、と言い出したのを辞めさせた、それを気にしている風でもない。
ああ、その時ディルは物凄く嫌そうな顔をして、だけど珍しく口を挟んでこなかったっけか。なんて考えが逸れかけて、慌てて思考を元に戻した。
父の元を、いつ訊ねるのか。
もう昼は過ぎているが、今なら十分、陽が高い。父の屋敷はここからもそれほど離れていないと聞いている。今日、これからでも可能だ。だが。
「明日にしようと思っている。ひとまずは現状の確認と挨拶だけと思っているから一人で行くつもりでいるんだが……ラルはその間、出来れば子供達と一緒にいてやって欲しい」
別に一緒に行ってもいいのだが、それは後日、落ち着いてからの方がいいだろう。
そう思って、まずは一人で。
ラルは小さく首を傾げた。
「僕はともかく……ナティも連れて行かないの?」
孫なんだし、会いたがっておられるんじゃない?
少なくとも、ラルの両親は子供達を可愛がってくれていた。それこそ、俺はともかく息子であるラルよりも、子供達とこそ会いたがる位には。
それを思い出しての発言だと思うのだけれど、俺は緩く首を横に振る。
「後日でいい。そもそも、父上はそこまで俺の子供にまで興味がないよ。こないだの通信でも一言だって子供たちのことなんて話題に出なかったんだ。父上が関心を持たれるのは、今も昔も母に対してだけだ。俺の子供なんて、俺に対するより、おそらく更に関心が薄まってると思うぞ。だから、後日、落ち着いてからでいい」
「そうなの?」
ラルがなんとなく微妙な顔をする。
ラルと父が顔を合わせたのはあの、俺を迎えにコリデュアを訪れていた時だけだと聞いているから、全体的に印象が薄いのだろう。
俺は以前ラルに、父は俺にあまり興味を持ってなかったと伝えていたはずなのだが、実感が伴っていなかったのかもしれない。
自分の子供より、孫の方が可愛いともよく聞く。
だがそういった多くの人の反応は、こと俺の父には当てはまらないのである。
「ああ。今回、連れてきているとか、それを認識しているかどうかすら怪しいぞ。そういうのも踏まえて確認してくる」
「フィリスがいいならいいけど……」
ラルはどこか釈然としない様子ながら、だけどそれ以上は食い下がって来なかった。
「それより、」
しかし、それはそれとして、俺はそれよりも今からしなければならないことがあった。
「それより?」
「いや、父より、大公に確認する方が先だろ」
ディルのことを。
肩を竦めると、ラルも俺の言いたいことが分かったのだろう。
なんとなく嫌なことを思い出したといった雰囲気で頷いた。
「ああ。確かにね。じゃあ、通信用魔導具、あるか確認しないと」
「あるって聞いてる。借りてくる」
「僕が行くよ。フィリスは休んでて」
ならばと言ったラルに、頷いた俺が腰を浮かそうとしたら、気遣ったのだろうラルに止められて。
俺はおとなしく座り直した。
「君なら問題ないんだろうけど、長旅で疲れてるのは間違いないだそうし、僕が行ってくるよ」
それはラルにも言えることだと思うのだけれど、間違いなく、俺を大事にしてくれようとするラルの気遣いだとも思うから、ありがたく大人しく受け取っておいた。
「じゃあ頼む」
「うん、任せて」
にこと笑ったラルが部屋を出るのを、座ったまま見送った。
後姿を目で追いながら俺は、廊下でばったり、とかディルと出くわしていなければいいな、なんてなんとなく思っていたのだった。
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