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続編的番外編
x-23・滞在先と母について
しおりを挟む街では宿を取っておいた。
一応ここでの滞在は二週間を予定しているが、場合によっては延びる可能性がある。
それは宿にも告げておいた。
元よりそれほど忙しい地域でもなく、ある程度、部屋は空けられるという。
なんでも、その宿を含めこの街全体が母の管理下にあり、宿を利用するのも半分以上、母と関係がある者ばかりなのだそうだ。
「おかげでどんなに暇でも潰れたりはしないんですよ。最低限は常に維持するようにと申し付けられていますから」
にこにこと宿の亭主にそう教えられ、俺はなんとも言えない気持ちになった。
なお、俺が母の息子であることなどは、容姿を見ればわかることなので隠しようがなく、宿側も理解した上で対応してくれていた。
「彼の方のご子息がお泊りになるのは珍しいことではありますね。その上、お子様までお連れになるだなんて」
余程、俺の兄弟たちは、この街に寄りつかないらしい。
俺自身、今回のようなことがなければ来ようと思わなかっただろうから気持ちはわかる。
誰が、常に性行為に耽り、どれほどまともな会話であっても、行為の最中にせねばならないような、それも自分とほとんど同じ顔をした親に会いたいと思うものか。
親のそのような行為など、目にしたくないと思うのは全く何も不自然なことだとは思わない。
それもあって、あの母に積極的に会おうとする兄妹など、おそらく珍しいだろうから。
今回も俺は母には会う予定がなかった。
ラルが、
「せめて挨拶ぐらい、」
なんて言い出したが、止めておいたぐらいである。
それぐらいには母は、会わない方がいい人物だった。
近くに広々とした母の離宮があるのに、わざわざ宿を取ったのも同じ理由だ。
特に幼い子供を連れて行くような場所ではない。
部屋がないだとか歓迎されないだとかそういった理由ではなく、単純に居た堪れなくなるだろうからというだけの話だ。
同時に、別におそらく歓迎もされない。拒絶もなく、いっそ不思議そうにさえされる可能性があった。
母とはそういう人なのである。
そんな母の元へ、月に一度は様子を見に行っているという伯父には頭が下がる思いがするほど。
反して父の住む屋敷は俺たち全員を泊められるほどには広くなく、俺たちは父の元へ、宿から通う予定となっていた。
ディルにも一応、同じ宿、もちろん別の部屋を用意する。
他の護衛や侍女たちより少し広めの部屋にしておいたのは、一応、大公からの紹介ということで、多少なり気を使った結果だった。
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