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続編的番外編

x-21・唯一の癒し

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 その後に乗り込んだ列車は、ディルとコンパートメントを分けた。
 また当然、馬車も別にする。
 それでようやく不毛な終わらない言い争いに巻き込まれることなく過ごすことが出来て、俺は溜め息を禁じ得なかった。

「かぁたまぁ?」

 代わりのように、その後はずっと一緒にいることにした幼いナティが舌っ足らずな言葉で呼びかけ、心配してくれているのが可愛い。
 この旅での唯一の癒しではなかろうかとさえ思う。
 馬車の中だ。
 少し大きめの馬車で、同乗しているのは俺とラル、ナティとアミー、そしてディーウィと子守役の侍女だった。
 むしろ間に挟んだ子供たちが幼いからこそこの人数が乗り込めていると言っていい。
 オーシュは護衛らしく騎乗し、外で周囲を警戒してくれている。
 ディルが同じく騎乗しているのか、並走している別の馬車に乗っているのか、どちらかではあるはずだが、そのうちどちらなのかは彼自身に任せていた。
 ひとまずこの中にいなければよいので。

「フィリス様、馬鹿な大人など、そう相手になさらなければよいのです」

 そんな風、呆れたように告げてきたのはアミー。まだ四つになるかならないかだというのに、過ぎるほどしっかりしすぎた、よく口の回る小生意気な子供である。
 だが、これはこれで心配してくれているのはわかっているので俺はただ微笑んで返した。
 ちなみにラルはアミーの横にいるのだが、苦い顔で聞こえないふりをしている。
 こういう所が呆れられるのだ、思っても俺は口にしないでおいた。

「ありがとうアミー。そう出来ればいいんだけどね」

 なかなかそうもいかないのが、大人の都合というものだろう。
 むしろ今の状況なら十分に、可能な限り相手にしていないとも言える。
 列車も馬車も共に過ごさないとなると、おそらくディルは本意ではないはずだ。
 彼個人の考えからしても、大公の意向を含めても。
 そもそもお互いにいい大人なのだ。

(せめて表面上だけでも友好的に過ごせないものかな……)

 そう考えて、だけどあの、敵意むき出しのディルの視線を思い出し、無理だなと早々に諦めた。
 全く何も心当たりなどない。
 なにせディルとはあの、大公から紹介を受けた時が初対面だったのだ。
 なのにどうしてか俺はあの初めの初めから、彼に嫌われているようだった。
 理由などわかろうはずがない。
 ディルだけが一方的によくないだなんて、そんなことは思いたくはなかった。
 だが事実、ラルやオーシュ、ディーウィの態度はディルに感化されたにすぎず、従ってディルの態度が改まらない限り、ラルたちの態度が変わるとも思えず。おまけにそれを受け、ディルがまた生き生きと言い返したりなどしているのである。
 あれはむしろ一周回って、楽しんでさえいるのではないかと思うほどだ。
 ラルはそうでもないけれども、少なくともディルだけは、そういう、戯れているような所があるように俺には見えた。

(言い争いを楽しまないで欲しい……)

 共にいる身としてはいい迷惑なのだから。
 特にこの旅行は子供達も一緒にいる。余計にうんざりしてしまう。
 それはそれとして、ディルはいったいどこまで着いてくるつもりなのだろうか。
 まさかリリフェステにいる間ずっと共にいなければならなかったりするのだろうか。
 想像したくもなかったが、違うとも言い切れず。

(父上の所には通信用魔導具があったな……)

 今は移動中なので、流石に所持していない。
 リリフェステの大公邸にもないわけがないので、父の所に着いたら大公へと連絡を取って、ディルのことを確認しようと心に決めた。
 いっそ、初めからそうしていればよかったと思ってももう今更なのだから。

「大人というのは難しいのですね……」

 納得しきれていないと言ったアミーの様子が微笑ましくて頬を緩めながら、俺はいっそ一刻も早く父の元へ着きたい。そう思わずにはいられなかったのだった。
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