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続編的番外編
x-15・二人きりの馬車にて②
しおりを挟むいきなり笑い出した俺に、ラルが困惑しているのが伝わってくる。
「フィリス……」
情けない顔で名を呼ばれ、俺は流石に悪いかと思って、何とか笑いを収めて口を開いた。
「いや、悪い、なんだか懐かしくって」
そこまで告げて、でも、またすぐに笑いが込み上げてきてしまう。
「懐かしいって……どうして?」
俺が笑いを収めない間に、すでに馬車はゆっくりと動き出している。
慣れた馬車の揺れを感じながら、いまだ察していないらしいラルに更に何とか言葉を続けた。
「覚えてないか? 二人きりでこうして馬車に乗るだなんて、あの時以来だろ?」
「あの時って……」
「俺とお前が初めて会った時。アンセニースに向かう馬車だよ」
あの時。
俺とラルは、その直前に出会ったばかりだった。
しかも、それ以前にすでに夫婦となっているだなんて言われて。追い立てられるようにコリデュアを出た。
はじめは馬車の中、二人きりだったのだ。
護衛はいたと思うのだけれど、今と同じように外にいて。
「あっ……! ぁ、ああ、あの時はっ……!」
ようやく思い至ったらしいラルが、おそらくはだからこそ気まずそうに視線を逸らす。
あの時の馬車での移動も、翌日には俺がオーシュやディーウィを呼び寄せたのもあり、すぐに二人きりではなくなったのだ。
そうでなくとも、今回のよう、わざわざ馬車をわけでもしない限り、侍従や護衛など、誰も同乗していないことなど早々ない。
だから本当におそらくはあれ以来。
俺は少しだけ考えた。
別にあの時の再現をしようと思っていたわけではない。ないのだけれど。
だけど、二人きり。
わざわざ二人きりになったのである。
ラルの様子から、ディルのことなんてすっかり何処かに行ってしまっているのがわかった。
多分俺と二人きりになったから。
昨夜も少しは宥めたけれど、流石に旅先、すぐ傍に子供達がいたのもあり、肌を合わせたりなんて出来ていない。
否、そうしてもよかったのだけれど、なんだかラルの気が逸れているようだったからできなかったのだ。
でも、この様子なら今はきっとそうではなくて。
ラルは気付いていないかもしれないが、ディルのことが気に食わないのは、決してラルやオーシュ、ディーウィだけではなかった。
俺だって。ディルの態度に何も思わないわけではないのである。
否、悪意を向けられるのはいいのだ。俺に対して、どんな悪態を吐かれたって。
だから、俺が気になっているのは、そこではなく。
「なぁ、ラル。初夜の再来だな?」
流石に笑いは収めきった俺は、敢えてラルに向けて笑顔を作った。
精一杯の艶めかしさを乗せて。
「フィリス……」
そうして、陶然とラルが呟いた俺の名に。俺はどうやら俺の企みに、ラルが乗ってきたらしいことを悟ったのだった。
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