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続編的番外編
x-7・笑顔の奥の怒り
しおりを挟むともかくと、気を取り直して、ディルの言う、お嬢ちゃんだとかビショーネンだとかいう発言は流してしまうことにする。
付き合っていられない。
そう思った部分もあった。
「と、ともかく、なら移動しよう。同行するということだが、それは今から? それとも準備が?」
そんなやり取りをしていたのは、大公邸の応接室だ。
避ければここを使ってくれ、と、案内された場所だった。
まだ少し、ディルの発言の数々にどこかあっけにとられたままな部分があるラルに代わって、俺が一応と確認すると、ディルはピクと片眉を上げ、
「ん? ビショーネンが仕切んのか?」
旦那を差し置いて?
とでも言いたげな口調でどこか小馬鹿にしたようにそう訊ねてくる。
やはり好かれてはいないようだと感じた。
だが、これには流石にラルも我に返って不快感を示す。
「……ヨレギエ殿、と言ったかな?」
「ディルでいい」
「ヨレギエ殿」
にこ、笑って敢えて家名で呼んだラルに、ディルはひょいと肩を竦めて訂正を求めてきたのだが、ラルは敢えて再度家名で呼びかけて。
そうすることで、自身の不機嫌、あるいはディルに対する不信感、あるいは悪印象のようなものを示し、敢えてもう一度にっこりと微笑んだ。
「……なんだ」
そんなラルに気圧されたのか何なのか、それ以上は食い下がらず、だが鼻白んだ様子ディルが先を促す。
ラルは笑顔のまま、小さく首を傾げ、
「我が最愛の妻、フィリスの出自をご存じないのですか? もし知っていての発言なのだとすれば、ヨレギエ殿は随分と精神面のお強い方なのですね」
あくまでも穏やかにそう言い放った。
これはつまり言い換えるなら、誰に向かってそんな口をきいているのか自覚があるのか? もしあるなら怖いもの知らずにも程がある、と言った所なのだろう。
ディルの態度は確かに気になる所があったが、これではラルの方が喧嘩を売っているようなものだ。
「ラル」
俺は小さく溜め息を吐いて、名前を呼ぶことでラルを諫めた。
「フィリス?」
しかしラルの返事は、どうかしたのかとでも言わんばかりの笑み。
(なんだこれ、いったい)
俺はなんだか物凄い疲労感を感じざるを得なかった。
どうやらとにかく、理由はわからないが、俺はディルに好かれていないらしい。
そしてディルはそれを態度に出す人間であるようだ。
だが、そんな態度の人間を、ラルが、そしてディーウィやオーシュが快く思うはずがない。
待って欲しい、まさか本当にこの男が今回の旅行についてくるのか。
それを思いつくづくうんざりした。
とは言え、受け入れてしまったものはもう仕方がない。
「それで、結局、準備などは?」
俺は何もかもを投げ捨てて、もう一度先程と同じ問いを繰り返した。
ラルは俺のやることならなんでも受け入れる、否、受け入れろと言わんばかりにただにこにこと笑っている。
反してディルは今度は思いっきり明確に顔をしかめて。ややあってふいと顔を逸らした。
「……別にない。すぐに着いていける」
ぶっきらぼうながらはっきりと返事を返してきたので俺は頷く。
波乱の予感しかしない旅行の幕開けだった。
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