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190・無能の行く末⑩
しおりを挟むケレシーナル子爵領はそれほど多くの奴隷などを使用している領ではないとなっていたはずだ。
工夫などの一部は囚人や奴隷を使用している可能性があるので、採掘は出来るかもしれない。
なお、奴隷自体この国では一部を除き規制されていると聞いている。一部というのは囚人などで、つまり罰というような意味合いが強かった。
だが、加工ともなると技術職となり、当然その限りではなくなる。流通など言わずもがなだ。
具体的な状況が何もわからずとも想像するぐらいなら容易い。
情報が伝達されさえすれば、影響は免れなかっただろう。だからこそこの男は今、ここに居て、憎々しげに俺を睨みつけている。
全部、自分の言葉が招いたことなのだと理解していない。
親切な誰かが告げでもしたのか、一応、理由に思い至りはしたのだろう。でもそれだけ。否、たったそれだけであっても評価するべきなのだろうか。まさか、俺にそんな義理も義務もない。
俺は子爵を見下ろして、ほんの少し首を傾げ、微笑みを保ったまま最後に告げた。
「残念ながら俺には何もできません。そして、たとえもし何かできたとして、する理由もない。貴方はまだ私を蔑んでいますね。どうしてそのような方に、私が便宜を図る必要があるというのです? 正直に申し上げて、私は貴方が今後どうなろうとも一切の興味をもちません。恨みもなければ関心もないのです。ですから、今日のように謝罪に赴いて頂いても何かが変化するようなことはございませんので、よくよくご承知おきください」
そして、男を取り押さえている護衛達に視線を投げる。心得た彼らは小さく頷き、男を無理やり立たせたかと思うと、引きずりながら門の外へと追い出していった。
「なんだとっ?! おいっ、まてっ! 放せ! 放させろっ! このっ―――……! っ! ……!」
相変わらず姦しくわめきたてる男の声が遠ざかっていく。
最後まで様子が変わらない辺り、本当に救いようのない人物だと痛感した。
途中から結界に遮られでもしたのか、ぴたりと声が聞こえなくなったが多分、変わらず何か言い続けているのだろう。パクパクと口から唾を飛ばして何か言っている風な男を一応は見えなくなるまで見送って、俺はふぅと溜め息を吐いた。
「お疲れさまでした、フィリス様。わざわざお会いになる必要などございませんでしたのに」
ディーウィが慇懃に労ってくるのに肩を竦める。
「ほんと。バカはバカすぎて相手に出来ないな」
「だから、相手にしなくていいって言ってるんですよ」
吐き捨てると、聞いてます? とばかり窘められ俺は小さく頬を膨らませた。
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