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188・無能の行く末⑧
しおりを挟む男は絶句している。
俺の発言は本当に何一つ男には理解できないものらしい。
「な、何故だってっ?! そんなこともわからないのかっ、これだから下せっ……うっ」
続けて、なおも口角から唾を飛ばす勢いの男が、またしても無礼極まりない悪口を口にしようとしたためだろう、取り押さえていた護衛の一人が、口を塞ごうと動いたのを俺はさっと視線で制した。
なにせこの男がこれからどれだけ失言しようが、俺は一向に構わないのだから。むしろ実は少しばかり、どんなことをどういうのかも気になっていて。視界の端で、ディーウィが咎めるような視線を向けてきているのはわかったけれど、これぐらい構わないだろうとそう思う。
「げほっ、ごほっ、な、なんて乱暴なんだっ! しつけ一つできないのか、卑怯者めっ!」
「ですから、何故、卑怯だと?」
「卑怯だろうが! あんなたかだか茶会での発言ごときを取りざたして、私を陥れるなど! これで卑怯でなくて何だというのかっ! おい、いい加減はなせっ、くそっ! 痛いじゃないかっ! おい、なんとかしろ! おい!」
男の心情が少し明らかになって、俺はなるほどと頷いた。
勿論、男の言い分など、ちっとも納得できるものではない。
茶会での自分の言動をごときと軽んじる。つまりそれこそが、自身の現状を招いているのだとどうしていつまでも理解しないのか。
俺は緩く首を横に振った。
蹲った男がただひたすらに憐れで、俺は同情が禁じ得ない。
勿論、こんな男の治める領地に暮らしているだろう者達に対して、だ。
「子爵殿。他者に招かれた茶会での言動が他に漏れることなど、いわば当たり前のことでしょう。そもそもあなた方は常にそうして情報を共有しておられるはずだ。人の口に戸は立てられないとも申します。茶会の席は貴方の私室ではないのです。貴方ご自身の言動が誰かに知られたからと言って、誤った事実が伝わっているわけでもなければ、それは誰であれ、咎められるようなことではありません」
そもそも、もしそんなものが禁忌であったならば、噂話が広がることなどあり得ないのだから。
今回のことだって同じだ。
あの場にいた誰もが情報を捻じ曲げて伝えたりなどしていない。否、無能な8人に関しては知らないけれども。ただ偽らない彼ら自身の言動が周囲へと広まっただけ。それを聞いたそれぞれがどう判断するかも、聞いた者次第なのだ。
例えばこの子爵の場合、おそらく仕事へと影響が覿面に出たことだろう。一番初めに動き出したのは商会の者か、それとも。
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