【完結】初めて会うイケメンの旦那が甘やかしてくるんだが。ちょっと待ってこれどんな状況?

愛早さくら

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186・無能の行く末⑥

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 俺はにこりと微笑んで見せる。
 そんな俺を見て男は希望でも見出したのか顔色を明るくした。
 ああ、本当に何も理解していないのだなともう何度目か、つくづく思う。

「謝罪は必要ございません。何故なら、いくら謝罪を頂いても、何も変わることはございませんから」

 口先だけの謝罪など、してもしなくても意味はないと、そのまま俺は男に告げた。
 一瞬、惚けたように俺の言葉を理解できなかったらしい男は、じわじわと脳にしみわたってでも言ったのか、顔をくしゃりと歪めていく。
 俺は微笑んだ顔を崩さないまま男を見つめ続けた。
 あの茶会での様子と、同じように。

「は、はは、はは、な、何を……おっしゃっておられるのです? ふ、夫人は私とお会い下さった! こうして謝罪も受けて下さった! そうでしょう?」

 信じられない、言わんばかりの男の震える声に、俺は静かに首肯した。

「そうですね。私は確かに、貴方にこうしてお会いしていますし、貴方からの謝罪のお言葉もお聞きしました」
「だ、だったらっ! 慈悲深い貴方ならきっと!」
「ケレシーナル子爵殿。私が慈悲深いというのは、何処からお知りになったことですか? 残念ながら私は慈悲深くはありませんよ」

 あくまでも笑みを崩さない俺の言葉に、男の顔に浮かんだのは絶望、そして憤りだ。

「そ、そんな……だ、だったら私は何のためにっ……お、お前のような下賤な者になど、何故、縋ったり頭を下げたりなどっ……!」

 ポロと零れたその発言で、先程の様子が男にとってははなはだ不本意だったのだろうことがわかる。
 これほどまで打ちのめされ取り縋っておきながら、まだそんなことを言うのか。
 俺をいったいどう思っていたのかがよくわかるというものだろう。
 おそらくこの男は、俺に形だけでも何でも頭を下げて取り縋れば、すぐにも許されるとでも思っていたのだろう。
 自分がプライドをかなぐり捨てて無様な様子を晒すのだから、そうに違いないと信じていた。きっとだからこれほどまでに取り乱している。
 俺はただ事実を事実として伝えるだけだ。

「子爵殿。貴方の謝罪はどうやら本当に意味がなかったようですね」

 茶会で俺に無礼なことを言った、たった今そういったばかりなのに、どうして同じような発言が出来るのか。本当に全く理解できない。

「お、お前はっ……!」

 男が激昂したのがわかる。ぶるぶると震える拳。今にもそれはそのまま俺に向かってきそうなほど。
 だが俺は知っている。
 男の拳など、決して俺には届かない。そんなもの、結界を張るまでもないことだろう。
 そんな男の様子を前にしても。俺は憐れだなとしか思わなかった。
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