186 / 236
184・無能の行く末④
しおりを挟むとはいえ、ナウラティスの結界の基準と自身の性格がよくはないだろうことはしかし今は関係がない。
宣言通り、程なくして呼びに来たオーシュについて裏庭に行くと、裏門と屋敷のちょうど中間ぐらい、妙に見晴らしのいい場所に、子爵がぽつんと立っていた。
この10日ほどでいったい何があったのか、それなりによかった恰幅が、心なしか萎れて見える。
表情も見るからに憔悴しきっていて。
あのお茶会の時の、居丈高な様子など微塵もない。
一気に老け込んだようにも見えた。
ケレシーナル子爵。壮年期真っただ中といった見た目で、決して若くはない。
だが、そこまで年配というわけでもなく、言うなればただのおじさんだ。
それなりの年数、生きてきた自負があるのだろう、見た目が更けてきているということは、つまり魔力量が衰えてきているということなのだが、そんなことは全く気にせず、妙に偉そうな態度が目立つ人物だった。
印象も勿論よくはなく、流石は無能とされるだけはあると思ったものである。
取り分け、粘ついた好色そうな視線が気持ち悪かったのをよく覚えている。
だが、今は、流石に様子が違っていて。
さて、この子爵の背景はどんな様子だったろうかともう少しだけ記憶を辿っていくと、そういえばケレシーナル子爵領には鉱山があったのだったと思い至った。
鉱山からは確か、良質なサファイアが産出されていたはずだ。
それを元とした加工と商会を通した流通でそれなりの資産を蓄えていると、資料には記されていたと記憶している。
つまり爵位の割には羽振りが良く、だからこそ随分と色々なことをしでかしているのだとか。
もっとも付随して評判は全く良くはないとも記載されていて、実際に本人を目にすると、なるほどと納得したものだった。
さて、この短期間で影響があったのだとすれば、加工か、流通か。むしろ両方かもしれない、そうあたりをつけておく。
多分それらで、全く思いもよらない不利益を被ったのだろうと。
近づいていくと、気付いた子爵が、俺の姿を認めたと同時、
「……っ! 公爵夫人っ!」
ばっとその場に這いつくばった。
どうやら文句を言いに来たのではなく、とりなしを頼みに来た方だったのだろう。
なりふり構わず地面に這いつくばって、頭を土に擦り付けている。
「も、申し訳なかったっ……! この通りだっ!」
そんな風に平身低頭いきなり謝られたところで、俺ははぁと深く溜め息を吐くことしかできなかった。
9
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。


繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる