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182・無能の行く末②
しおりを挟む正直、この見慣れない若い侍従、怪しいことこの上ないのだが、もしたとえ彼がよくない事を企んでいたとしても別にそれはそれで構わない。
何がどう転んだって、彼には俺が害せないだろうからだ。
企みたければ好きに企めばいいと思う。
ちなみに、俺は別に全く構わないけれども、ラルや、ラサスでさえそんなわけはないので、いずれにせよ彼は後程、俺にケレシーナル子爵の来訪を告げた、ということだけをとっても咎められるのだろうなとそうも思った。
「ふーん。俺に会いたいって言ってるの?」
気がない様子で相槌を打つと、視界の端で、苦い顔をしていたディーウィが、あからさまに呆れたような溜め息を吐いた。失礼な奴だなぁと思いながら、何も口出ししてこないのをいいことにこの場ばかりは構わないことにする。
「は、はい、是非に、と……」
若い侍従がかわいそうにびくびくしてるのは、オーシュの視線さえ厳しく彼に注がれているからなのだろう。
もっとも、彼にそんな視線を注がれても仕方がないような情報を持ってきているのだから甘んじて受けてもらう外ないのだけれど。
と、言うかそもそもそれさえこの侍従はもしやわかっていなかったのだろうか。だとすれば特に何の企みもなかったとして、侍従教育ぐらいはしっかりした方がいいとラルに後で告げておかなければならないな、などとも思いながら、俺はとりあえず頷いた。
「うん、わかった。いいよ。じゃあ会おうか、とりあえず、えーっと……」
「今、子爵は屋敷内へ?」
「い、いえ! 門の外でお待ち頂いております」
迷う俺を見兼ねてか、ディーウィが代わりに確かめる。返ってきた答えに俺はぱちりと瞬いた。
なんと、敷地にさえ入れていなかったのか。
つまり教育が足りていないらしいのはこの侍従ぐらいだということだろうか。それとも件の子爵の様子があまりに憐れっぽくて、見ていられなくでもなったのか。お人好しそうな雰囲気はあった。見るからに気も弱そうだ。もしくはたまたま傍を通ってしまったりして、恫喝でもされたのかもしれない。だとしたら憐れと言えば憐れである。
いずれにせよ、なら勝手に屋敷内に招き入れるなど論外というものだろう。
かと言って、俺自身が敷地外へと出れるとは思えない。し、出たいとも思わない。ならばギリギリは……。
「……庭かな。ねぇ、君、子爵って正面門にいるの?」
「まさか! 裏門です。そこで懇願していらして……」
やはり通りがかりに不運にも件の子爵に行き当ってしまったのかもしれない。
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