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172・開いた茶会にて⑯
しおりを挟む先程エドゥヌ侯爵夫人はあからさまに動揺した。
このような場面で動揺した様子まで見せるなど、到底高位貴族のとる態度ではない。
加えて屈しないと言わんばかりの態度は、だけどおそらくはただの痩せ我慢なのだろう
深くなった俺の笑みにいったい何を見たというのか、ひっ、と小さく悲鳴が上がったのはクルテリラ伯爵令嬢の方から。
だが、たとえこの場でどのような反応を取られたとしても。俺の笑みは崩れない。
「脅し? いえいえまさか、脅してなどおりませんよ。ただ、今、貴方の侮辱した国はそういった国なのだと告げているだけなのですから」
こんなもの脅迫にもなりはしない。ただの事実に過ぎなかった。
ナウラティスは何もしない。なにせ直接指示などしなくとも、察して率先して動き回る周囲がいくらでもいることぐらいは把握している。
「ですが、そうですね……今の私のお話が脅しだと思われるのでしたら、それはご自身のお言葉に疑念がおありになるからでは? もしそうではないというのなら、お好きになさればよろしいのです。結果は自ずとついてまいりましょう」
にこりと笑みを深めた。
そう、俺は別に何もしない。
何故ならこの茶会で必要だったのは、彼らの反応そのものだったからだ。
俺にいったいどういった言動を取るのか。それこそが重要だった。
それさえしっかりと周知されれば、後は俺が何もせずとも彼らは勝手に自滅していく。
侯爵夫人はなぜか、悔しそうに俺を睨みつけてくる。
その視線に込められた感情はいったい何だというのだろう。
本当に全く理解できない。理解したいとも思わないけれども。
「そ、そうですわね! 誰がどう正しいのかなど、すぐに知れますもの。ほ、ほほ、私としたことが……」
ほんの少しの沈黙の後、気を取り直したようにそう告げる侯爵夫人に、俺はもう少しだけ付け足して、それで終わることにする。
「ええ、自分の行動は自分に返ってきますから。私だって誰かに、よくないことが起こって欲しいだとは思っていませんしね。ただ、自分の行った言動の責任は取らなければならないのは確かです。私がこうしてお話しさせて頂いているのも、何もお伝えしないままなのはよくないだろうと判断しただけに過ぎません。どうぞご自身のお心を今一度振り返って見られるとよいでしょう」
この後いったいどのような結末に至っても。それは自分の言動によって引き起こされたことなのだと。そうとだけ伝えた俺の言葉が、どれぐらい彼女に響いたのかはわからないが、中座まではしなかった彼女は、その後、ほんの少しだけ口数が少なくなり、だが、端々で隙を見ては俺を貶めたいのだろう気配はありありと漂わせ続けていて。それでも最後まで、問題となる8人が思う通りの茶会にはならなかったのではないかというような結果で終わった。
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