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167・開いた茶会にて⑪
しおりを挟む彼の国の脅威を侯爵夫人はわかっているようで結局はわかっていないのだ。
例えどのような侮辱を受けようと、実際に彼の国が動くことなど先ずない。反面、それを聞いた周囲が動かないこともまたありえないのである。
彼の帝国の恐ろしさはそこにあった。
彼の帝国からは明確な制裁がほとんどないにもかかわらず、彼の帝国に楯突いた存在は必ずと言っていいほど身を滅ぼす。
この近隣諸国で彼の帝国の恩恵を受けていない国など存在しないのも理由の一端だ。
それ以外では魔法魔術の存在。この近隣諸国で使用されているそれらの権利の半分近くを彼の帝国が有しているがゆえだった。
彼の帝国が取る可能性がある明確な制裁はそれらの使用権の停止程度。ただしそれで滅ぶ国がいくつあることだろう。
それほどまでにこの世界では魔法魔術の存在は根付いている。
そのような制裁を恐れる者たちが自発的に動くことによって、実際に口が噤まれた。
その恐ろしさを、この侯爵夫人は理解していない。
ちなみにそんな魔法魔術の使用権をいくつか俺も有しているのだが、そこまでの把握は必要ないだろうけれども。
加えて、王妃の悪名高さを、まさか本当に知らないのかとも問っておく。彼女が時折、誤った発言をすることは、周辺諸国には有名な話のようであるためだった。
侯爵夫人は明確に憤っている。
だが、彼女の怒りなど、全く何も怖くはない。むしろ見る限り視野の狭さは折り紙付きで、どう見ても不要な無能である辺り、国王陛下の思惑通りに進んでいるのだろうなと思うと、反吐が出そうな心地となった。
使われることなど、俺は別に全く好きではないのだから。
「ナウラティスの魔女。皆様もその存在はご存知では? 聞いたことぐらいはお有のはずだ。それぐらいは有名だと認識しています。私の母は彼です。確かに、彼の行状は褒められたものではありません。その所為で父は母を妃として迎えることなど出来なかった。そもそも母はそんなこと、全く望んでいなかったでしょうが。そしてだからこそ王妃は私を疎んじている。正直、それはわからないでもないですが……目に余るようなら指摘せざるを得ない。同時に、私が父に託されたのは母の温情に過ぎません。父が望んで母が応えたのです。また、母が彼の帝国の王族であることも揺るぎない事実。何より私のこの容姿を見て、なぜ今、私が告げた事実以外の噂などをお信じになられることがあるのか。私には理解致しかねますよ」
はははと笑いながら一息にそこまでを言葉にした。
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