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161・開いた茶会にて⑤

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 露骨に眉をしかめている辺り、これはまた彼の王妃と同じく、ご自分に随分正直な方のようだと理解する。
 しかしこの程度、言ってしまえば可愛らしくしか思えない。

「まぁ。ご立派ですこと。ですが、お生まれの所為で適切な言動がお取りになれないご様子ですわねぇ」

 これだから下賤の者はとでも続きそうな口調に、俺は思わず吹き出しそうになってしまった。
 適切な言動が出来ていないのはどちらなのか。
 これで侯爵夫人。それも年齢からして、長く社交界に居座ってきていたのだろうと思われる。
 くすくすと漏れる笑いは当然のことながら件の8名から。反対に一番遠い所にいる二人は不快そうに眉根を寄せていて、やはり彼女の発言は、通常の感覚からすると理解し難い物であることを表してでもいるかのようだった。
 ちなみにカティリュナ辺境伯は興味深そうに全体を眺めているばかりなのでまったく何も参考にならない。
 クルテリラ伯爵令嬢までもが、エドゥヌ侯爵夫人の発言を何らおかしいと思っていなさそうな辺り救えないなぁと痛感する。
 もしや怯えて見えたのも演技だろうか。その可能性もありそうだ。だとすればそれなりに擬態が上手いと言えるだろう。

「エドゥヌ侯爵夫人ったら。リヒディル公爵夫人はまだこのような世界に馴染んでいらっしゃらないのでしょうから、仕方ございませんわ」

 うふふ、あははとでも笑い出しそうな笑み交じりの口調で同意したのはアティクシーエ伯爵。別に親しい間柄というわけでもなかったと記憶しているが、今のような話については同意見なのだろう。

「そうですわ、徐々に理解していけば宜しいのですもの」

 一見とりなしているように聞こえなくもない発言はクワシュティン子爵令嬢。ちなみに彼女とアティクシーエ伯爵とはそれなりに仲がいいらしい。

「エドゥヌ侯爵夫人。初めから何もかもなどが難しいのは当然ですよ。きっとそれもあり我々をお呼びになったのでしょうから。ねぇ?」

 窘めるようでありながらも、俺を貶めるという意味においては何も変わらない発言で、更にこちらへと同意を求めてきたのはアキュシラ侯爵子息で、相変わらず舐るような視線が気持ち悪いばかりだった。
 ちなみに俺は頷かず曖昧に微笑むのみで返してやる。

「あら、アキュシラ侯爵家のご子息は随分寛大なのねぇ。いいことだわ。きっと公爵夫人もご子息にしっかりと・・・・・お教え頂きたいと思っていることでしょう」

 なにせ股が緩いと聞いているのだから、とでも続きそうなエドゥヌ侯爵夫人の発言に、俺はすでにうっかり辟易しそうになっていた。
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