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160・開いた茶会にて④
しおりを挟むこのように面白がられてはあまりいい気はしないのだが、別に彼女は敵ではない。むしろ今日の茶会についてもいくつか助言をくれさえしている。ラルからのお墨付きもある辺り、信用してもいいのだろう。
現に俺に向けられる眼差しに険はなく、ただひたすらに楽しそうにしているだけである。あるいは俺を試している部分はあるかもしれないとは思うけれども。
皆が自分の名を名乗っていく。ただそれだけなら流石に場は荒れようがなかった。
ただし、カティリュナ辺境伯達3人以外の者たちの視線は、どれもこれもよろしくはない。
びくびくと震えているばかりに見えるまだ子供と言って差し支えないクルテリラ伯爵令嬢でさえ、周囲を窺う視線には打算が見え隠れしている有様で。
それでもこの中で考えると一番ましだろうか。想いながら俺は注意深く彼らの様子を観察した。勿論、そうと悟らせないように気を付けて。
「それにしても……今回のお茶会の招待には驚きましたわ。私てっきり、リヒディル公爵夫人は社交がお得意ではないと思っておりましたの」
それぞれの自己紹介が終わって、一番に口火を切ったのはエドゥヌ侯爵夫人だった。
早速きたか。そう思う。爵位からしても、真っ先に話し出すのが彼女であろうことはわかっていた。こういった席では多少目こぼしされるとはいえ、基本的に貴族間では下位の者から上位の者へと先に話しかけるのはマナー違反となるからだ。
なので茶会であれ夜会であれ、あるいは他の集まりでも、一番に口を開き始めるのは、その場で一番爵位の高い家に所属する者と決まっている。
今、この場だと俺になるのだが、俺は主催者なので、除外してもおかしくはなく、そうなると彼女か、あるいはアキュシラ侯爵子息が話し始めるのは何も不自然なものではなかった。
ただしおそらく彼女は敢えて意図的に、俺が話し始めるのを全く待たなかったのだろうけれども。
それは先ほどの発言だけ見ても手に取るようにわかる。彼女は俺を侮っている。でなくば目上の者に対して、苦手なものの指摘などするはずがないのだから。それも開口一番に、である。
俺はそんなことには全く気付いていない顔をして微笑んだ。
「……よく、ご存じでいらっしゃいますね。確かに私はあまり社交が得意ではございませんが、今の立場に就かせて頂いたからには、必要なことなのだと理解しておりますよ」
そして否定はせずにやんわりと釘を刺す。得意不得意で放棄するほど無責任ではないと、そう。
意図を理解したのだろう彼女が鼻白んだのが分かった。
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