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148・不快な結果と⑥
しおりを挟む早速とばかりに呼び出したラサスは、俺の話を聞いて、ぱちりと一つ瞬いたかと思うと、次いでやんわりと、どこかほっとしたとでも言わんばかりに微笑んだ。剰え、
「お声がけ頂けてよろしゅうございました。私共の方こそ、奥様にどうお伝え差し上げようかと考慮させて頂いていたところです」
と、そんなことまで告げてくる。
なお、奥様とはつまり俺のことを指している。旦那様の伴侶だから奥様となるらしい。
その言葉からどうやら彼の方でも、俺にここ、アンセニースの貴族について伝えようと思っていたことがうかがえた。
それについてやんわりと、だけどはっきり消極的だったのはラルであるらしく、だからこそ余計に、俺に施すべき貴族教育に対して、手を出しあぐねていたらしい。
「奥様は……拝見する限りおそらく、マナーや基本的な教育という意味では問題ございませんでしょう。ですから、必要だとすれば、この国特有のことのみかと考えております。この貴族についてなどもその一環ですね。知識も情報も、あるに越したことはございませんから。なければ隙を作ることにもつながります。ですのに……」
語りながらも言葉を濁すのは、ラサスのそんな考えに水を差したのが、他でもないこの家の当主だからなのだろう。
ラサスはひっそりと溜め息交じりに言葉を続けた。
「旦那様はどうやら奥様を少しだって煩わせたくはないご様子。むしろこの国の貴族などから遠ざけたいとさえ思っておられるのかもしれません。確かに貴族同士のやり取りなど、煩わしいばかりでございますが、だからといって避けて通れるものでもございませんからね。奥様が聡明な方でよろしゅうございました。奥様からのお申し出とあらば流石の旦那様も、反対しきれませんでしょう」
なんだ結局必要なのかと俺は呆れるやらがっかりするやら。そして同時に、そんな話が出ていたのなら、俺にも伝えて欲しかった、そうも思う。
と、言うか、俺の想像の中だけではなく実際に想像通りに、ラルが俺の教育を妨げていたと聞かされると流石に驚いた。
ラサスの話を一緒に聞いていたディーウィは呆れたと言わんばかりに溜め息を吐いていて、俺もこれに関しては同じような印象だなと内心で同意する。
ラルの過保護はどうやら俺の想定以上のようだと実感した。
否、やはり囲い込みではないかとも思う。
その心理はいったいどこから来ているのか。知りたいような、知りたくないような。
早速とばかり、これまでに届いた招待状を改めるラサスを眺めながら、俺は一度ラルをじっくり問い詰めた方がいいのかもしれないと、そんなことまで考えていた。
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