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139・初めての夜会⑰
しおりを挟む時折、怒れば怒るほど何故か笑顔になる者が存在する。
ラルもどうやらそのタイプだったようだ。
否、ただ単純に、怒りに我を忘れて、今この場が王家主催の夜会だということを失念してしまう愚かさを持ち合わせていないというだけの話なのか、ラルは笑った。声を立てて。
「はっはっは。貴方こそ何をおっしゃっておられるのか。噂とやらが何かは存じませんが、貴方はどうやら目も耳も上手く機能していらっしゃらないようだ。目の前のことでさえ、何もご覧になられていないだなんて。早急にお立場を後進にお譲りになるか、あるいはご自身の周囲を整理なさった方がよろしいかもしれませんね」
続けられた言葉はこちらもまた、隠そうとしているのかいないのか、どう聞いても意味は明白である。
つまり、とっとと引退しろ、さもなければその地位を脅かすぞと宣言したに等しい。
もっとも例えば実際に男が素直に立場を退いたからと言って、ラルが何もしないとは全く思えないけれど。
対峙する男は、流石にこれを理解する程度の頭脳は有していたらしい。
途端に、さっきのラルよろしくびきりと固まって気色ばんだ。
「なっ、……にっ、を、おっしゃっておられるのか、公爵閣下っ……言っていいことと悪いことがございますぞ」
男の声は震え、辛うじて怒鳴りつけたいのを我慢しているのがありありと伝わってくる。
対するラルの笑顔は崩れない。
俺はそんな二人を、恐ろしいなぁと思いながら大人しくただ眺めていた。
「ははは。本当に貴方は面白いお方だ。言っていいことと悪いことの区別がついておられないのはあなたの方でしょう。私は勿論、理解して発言しておりますよ」
にっこりと。あくまでも笑顔を崩さないラルは、それでもやはり明確に怒っているのである。
勿論、先程の男の発言と合わせてその前からの不躾な視線とのおそらくは両方に対して。
周囲は少しばかり遠巻きにして、密やかに、だけど確かに二人に注視していた。
目立っている。
もっとも、それは元からなのだけれども。
「なっ……!」
男の顔がますます赤くひきつる。
言葉も出ないとばかりの憤りに見えた。
「い、言わせておけば付け上がりおってっ……! 私は聞いておるのですぞっ! そのような下賤な者をこのような場にまで伴ってっ……! 早急に自制なさらねばっ! 後悔するのは閣下の方だっ……!」
付け上がる。
ふむと、俺は首を傾げた。
ラルは公爵である。爵位としては一番上、王族の次。
確かに年はまだ25にもなっていないので若いのは間違いない。
だが、ラルを指して、もし指摘できることがあるとするならばそれだけだ。
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