【完結】初めて会うイケメンの旦那が甘やかしてくるんだが。ちょっと待ってこれどんな状況？

135・初めての夜会⑬

「フィリス、君が強いことは知っている。でも……」

　ラルが小声で更に囁く。
　続けられた言葉は、案の定、同時に俺がこういった場その物に慣れていないということも知っているというもの。

「ディーウィから聞いているよ。そもそも社交の場その物にも数えるほどしか参加したことがないだとか」
「ラル。俺をいくつだと思ってるんだよ、こないだ成人したばっかりなのに、そんな経験が豊富である方がおかしいだろ」

　そもそもナウラティスでは夜会などの参加は基本的には成人後とされている。
　勿論、祝い事など夜でない物なら例外的に認められていて、俺が参加したことがあるのはそちらの方ばかり。
　夜会に近い物など、正直、学園の卒業記念のそれしか経験がないと言ってよかった。

「でも、こういう視線には残念ながら慣れてるんだ」

　なにせ育った場所が育った場所なのだから。
　俺が何を指しているのかもラルには伝わったのだろう。

「ああ……」

　ラルが溜め息のような相槌を打つ。とても不本意だと言わんばかりだ。

「ラルは気にしすぎなんだ。俺は本当に大丈夫だから。それより、」

　ごく自然に寄り添いながら、周囲に気取られない程度の密やかさで囁きを交わして。注意を促したのは、こちらへと近づいてくる気配を察知したからである。
　多分、俺と同じぐらいには気づいていたはずのラルはまた、ごくごく微かに同意を示して見せて、二人してその気配が更に近づいてから、敢えて今気付いたとでも言わんばかりにそちらへと向き直った。
　そこにいたのは妙齢の女性が一人。
　とても見目が良いが、非常におとなしそうな青年を伴っていて、女性自身は生気にあふれ、非常に若々しかった。だが、見た目に反して、おそらくそれほど若くはないのだろうことが成熟しきった雰囲気から察せられる。
　漂わせる妖艶さが、どう控えめに見ても、見た目と釣り合わないのである。
　勿論、それらに不自然さがあるわけではなく、蠱惑的でさえある滴るような色気はきっと、彼女のような見目に惹かれるものであるなら、誰であっても釘付けにするだろう程のものだった。
　ラルが柔く眼差しをたわませる。どうやら顔見知りであるらしい。

「これはこれは。ご無沙汰いたしております、レディ」

　慇懃に、まるでくちづけろと言わんばかりに差し出された手の甲へ、逆らわず口を寄せながら挨拶を交わすラルに女性はふふととても楽しそうに笑って見せた。
　そうしていながら注意は依然、変わらずこちらを値踏みするかのように向けられたまま。

「あら、レディなんてお上手ねぇ。珍しく顔を見たと思ったら。いつの間にそんなに口が上手くなったのかしら。可愛らしい方・・・・・・に影響でも受けたようね」

　そこでようやくちら、と注意だけではなく視線を向けられる。可愛らしい方。それが誰を指しているのかなんてわからないはずがなく。
　俺は敢えて如才なく、にこと、人好きがする笑みを意識して微笑んだ。