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133・初めての夜会⑪
しおりを挟む一度訪れていたのが良かったのだろう、俺は以前この王宮に来た時のように、きょろきょろと周りを見回したくなるのを堪えることが出来た。
とは言え、示された先は以前通された方向とは当然違う場所で、更に豪奢な雰囲気を醸し出している。
他にも同じ場所へ向かうのだろう男女が幾人もいて、彼らの注意がひそひそと、あるいはあからさまに俺とラルへと向けられているのが分かった。
それは良いものも悪いものも両方がごちゃごちゃと混在していて、かと思えば一度ちらと注意を向けたっきり、意識せずに済ませてしまっている者達もいて、なんだか興味深いなと俺は思わずにはいられなかった。
とりあえず悪意を向けてきているもののうちの一部が、国王曰くの無能なのだろうなということだけはわかる。
そしてそれはきっと間違ってはいないのだろう、彼らへと向けられる注意にも色々な意図が含まれていそうだったし。
豪奢な装飾を施された広い回廊の先、辿り着いたのはこういった催しを行う為に設えられたのだろう大ホール。
ひしめく人々を内包して余りある広さは、ナウラティス王宮の同じような意図を持ったそこに勝るとも劣らない。ちなみにコリデュアとは比べるべくもないのだろうなと思うのだけれど、コリデュア王城の大ホールなど、一度か二度ほど足を運んだことがある程度で、記憶はひどく曖昧だった。
だってあんな場所、普段は閑散として寂しいばかりでまったく用などなかったし。それでも明確に此処よりは狭かったような気がしている。
それはともかく、係りの者の紹介なのだか照合なのだかと共に入場する。
リヒディル公爵、及び公爵夫人。
高々にそう示されたことで、一応わざわざ名乗らなくてもよいという寸法だ。
もっともこの入場時の名乗りを全員分しっかりと聞いて覚えている参加者など誰もいないのだろうけれども。
俺とラルが誰だか分かった瞬間から、否、その更に前から視線はますます突き刺さるよう。
ここに来るまでの比ではない。
視線で殺されるだとか言うのはこういう状況を指すのかもしれないと俺は感心した。
いずれにせよ初めての経験である。やはりどこまでも興味深い。
「フィリス、大丈夫?」
俺を視線から守るかのようにぴったりと寄り添ってくれているラルがそっと小さく囁いて聞いてくる。
俺は思わず噴き出した。
勿論、派手ではなく、控えめに。
「はは。大丈夫だよ、ラル、気にしすぎだ。俺がこんな視線ぐらいでどうにかなるとでも思っているのか?」
まさか。
囁き返した俺に、だけどラルは依然、気づかわしげな気配を失くしたりなどしなかった。
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