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131・初めての夜会⑨
しおりを挟むなんてことを思い出したのは、やはりラルの様子がどうにも甲斐甲斐しいからなのだろう。
夜会当日。
ラルとディーウィと仕立屋がああでもない、こうでもないと散々相談して決めた彼ら渾身の衣装は危なげなく間に合ったらしく、俺は隙なくそれを身に纏って王宮へと向かっていた。
馬車の中にはラルと俺とディーウィと、ラルの従者の四人。外にはオーシュを始め護衛が何人かついている。それと御者と。
これはラルのような高位貴族が移動するに当たっての一般的な状態だ。
コリデュアからアンセニースに向かう道中と、ある意味ではよく似ていた。
あれは聞いた所、長期間移動するには必要最低限過ぎたとのことだったけれども。
「その服。やっぱりよく似合っているよ」
そして俺はそう甘く囁くラルの膝の上である。
隣でいいので一人で座らせてくれないのは、つまりこれも甘やかしの一環なのであろうか。ある意味では、過ぎるほど、いつも通りのラルだった。
ちらとラルを見る。
いつもと違う服装。所々ポイントのように、俺の目の色や髪の色が使われているのは、つまり意味のあることなんだろう。俺がラルの目の色や髪の色を身に纏っているのと同じ理由のはずだ。
なんだかくすぐったい。
「ラルも。……よく似合っている」
いつもよりかっこいい。そんな気持ちを込めて呟くと、一瞬きょとんと眼を瞬かせたラルは、非常に嬉しそうに顔を綻ばせて。
「ふふ。そう言ってくれて嬉しいな。ついでにかっこいいって少しでも好きになってくれたりしたらもっといい」
そんなことまで言ってくる。俺はつい、口を尖らせてしまう。
だってどうにも照れ臭いのだ。こんなの初めてだな、そう思った。
だから、辛うじて。
「……ラルはいつだってかっこいいよ」
そう、ぼそりと返すだけで精いっぱい。ぱちり。驚きゆえにか目を瞬かせたラルは、次の瞬間、渾身で笑み崩れて。
「ふぃ、フィリスっ……! ああ、嬉しいよ、僕のことをかっこいいって思ってくれてたんだねっ……!」
感激したとばかり、ぎゅっと俺を抱きしめて、勢いよく口を寄せてきたので、俺はぎょっとして、流石にそれには抗っておく。
だってここは二人きりではないし、夜会に向かう馬車の中なのだ。
目の前の席でディーウィはにこにこといつも通りの顔をしていて、見覚えのあるラルの従者はそっと目を逸らしているのだけれど、俺には彼らの存在を無視することなんて出来なくて。
「ちょ、やめろっ、ラルっ! あっ!」
結局抗いきれず口づけられてしまった辺り、甘やかされるというのも楽ではないな。そう思わずにはいられなかった。
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