133 / 236
131・初めての夜会⑨
しおりを挟むなんてことを思い出したのは、やはりラルの様子がどうにも甲斐甲斐しいからなのだろう。
夜会当日。
ラルとディーウィと仕立屋がああでもない、こうでもないと散々相談して決めた彼ら渾身の衣装は危なげなく間に合ったらしく、俺は隙なくそれを身に纏って王宮へと向かっていた。
馬車の中にはラルと俺とディーウィと、ラルの従者の四人。外にはオーシュを始め護衛が何人かついている。それと御者と。
これはラルのような高位貴族が移動するに当たっての一般的な状態だ。
コリデュアからアンセニースに向かう道中と、ある意味ではよく似ていた。
あれは聞いた所、長期間移動するには必要最低限過ぎたとのことだったけれども。
「その服。やっぱりよく似合っているよ」
そして俺はそう甘く囁くラルの膝の上である。
隣でいいので一人で座らせてくれないのは、つまりこれも甘やかしの一環なのであろうか。ある意味では、過ぎるほど、いつも通りのラルだった。
ちらとラルを見る。
いつもと違う服装。所々ポイントのように、俺の目の色や髪の色が使われているのは、つまり意味のあることなんだろう。俺がラルの目の色や髪の色を身に纏っているのと同じ理由のはずだ。
なんだかくすぐったい。
「ラルも。……よく似合っている」
いつもよりかっこいい。そんな気持ちを込めて呟くと、一瞬きょとんと眼を瞬かせたラルは、非常に嬉しそうに顔を綻ばせて。
「ふふ。そう言ってくれて嬉しいな。ついでにかっこいいって少しでも好きになってくれたりしたらもっといい」
そんなことまで言ってくる。俺はつい、口を尖らせてしまう。
だってどうにも照れ臭いのだ。こんなの初めてだな、そう思った。
だから、辛うじて。
「……ラルはいつだってかっこいいよ」
そう、ぼそりと返すだけで精いっぱい。ぱちり。驚きゆえにか目を瞬かせたラルは、次の瞬間、渾身で笑み崩れて。
「ふぃ、フィリスっ……! ああ、嬉しいよ、僕のことをかっこいいって思ってくれてたんだねっ……!」
感激したとばかり、ぎゅっと俺を抱きしめて、勢いよく口を寄せてきたので、俺はぎょっとして、流石にそれには抗っておく。
だってここは二人きりではないし、夜会に向かう馬車の中なのだ。
目の前の席でディーウィはにこにこといつも通りの顔をしていて、見覚えのあるラルの従者はそっと目を逸らしているのだけれど、俺には彼らの存在を無視することなんて出来なくて。
「ちょ、やめろっ、ラルっ! あっ!」
結局抗いきれず口づけられてしまった辺り、甘やかされるというのも楽ではないな。そう思わずにはいられなかった。
18
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。


罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる