【完結】初めて会うイケメンの旦那が甘やかしてくるんだが。ちょっと待ってこれどんな状況？

125・初めての夜会③

　服を用意する。たったそれだけのことのはずなのに、どうしてこんなにも煩わしくてめんどくさいのだろうか。
　翌日さっそく呼び出された仕立屋と一緒に、ラルとディーウィがああだこうだと相談しているのを見るにつけ、全く着いていけないと、俺は溜め息を吐くことしかできなかった。
　ちらと様子を窺うと、オーシュも俺と同じような顔をしていて、どうも俺はディーウィとより、彼との方が感覚が近いようだと痛感する。
　オーシュはどちらかというと可憐と言って差し支えない容姿に反して豪胆な所があって、だからこそ護衛なんて任に就いているのだし、口も態度も大変に悪く、加えてやはり自分の容姿そのものに関心がなかった。つまり俺と同じである。
　俺もまた自分の容姿に関心がなく、服など、TPOに反していなければそれでいいとしか思えなかった。
　その辺り、

『美しいものは美しく保つべき』

　だとかなんだとかいうディーティとは全く相容れない。
　今の様子を見るにつけ、おそらくラルもディーウィに似た考えの持ち主なのだろう。あるいはそういうのではなく、ただ単純に俺を着飾りたいだけなのか。
　これまでそんな主張してきたのはナウラティスの現皇后である俺の叔父で、俺とだとほとんど同じ顔をしているくせに、自分ではなく、俺を飾り立てるのが楽しいのだとかなんだとか言っていた。普段は衣装になど興味を示さないらしいのに。ラルはもしかしたらこちらと同じ意見なのかもしれない。
　否、よくわからないが、今わかっていることは一つ。俺は現状に全く着いていけていないということである。
　どう見ても派手過ぎる織物から、一見地味にも見える生地まで、あらゆる布を身にあてられる。
　俺は為すがまま逆らわない。
　そのうちに流石に疲れてきて、そうしたら絶妙にそれを見極めた二人は別に俺に無理を強いたかったわけではないらしく、待つ間は掛けているようにと促してきた。
　にもかかわらず、まだまだ終わらないらしい。
　布が決まったら次はデザインだとかなんだとか言って、またしてもああでもないこうでもないと相談しあっている。
　オーシュはすでに飽き飽きして、堪えることなく大きく欠伸などしている。
　羨ましい。思いながら、だんだん眠くもなってくるのを必死に堪えながら、どこか楽しそうですあるラルとディーウィと仕立屋の様子をぼんやりと眺めること更に数時間。
　ようやくいろいろと決まったらしい頃にはすでに夕刻となっていて。昼過ぎからこれまで、丸々半日もかけて衣装を決めていたのかと思うと本当にうんざりして、もう当分こんなことには付き合いたくないと、俺は心底思わずにはいられなくなったのだった。
　ちなみに、子供が生まれてから後、上げることになった婚姻式用の衣装についてなどになると、この比ではないほどの拘束時間となることになるのだが、そんな未来のことなど、この時の俺は勿論知る由もない。
　それはこれよりもほんの少しばかり先の話だったので。