【完結】初めて会うイケメンの旦那が甘やかしてくるんだが。ちょっと待ってこれどんな状況?

愛早さくら

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122・新たな火種③

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「あっはっは。そうでしょう、そうでしょうとも。閣下は本当によく弁えて・・・いらっしゃる」
「恐れ入ります」

 いったいラルが何を弁えているというのだろうか。
 心底この男のことなど、馬鹿にしているだけだと思うのだが。

「もしご入用・・・なら是非、私にも声をかけて下さい。いや、まさか噂の彼がこれほど麗しい者だとは閣下もさぞや嬉しい誤算だったことでしょうなぁ」
「心にとめておきます。では、わたくしたちは先を急ぎますので」
「おお、これはこれは引き留めて申し訳ございませんでした」

 ご入用。それはいったいどんなことに必要だというのだろうか。男の舐めるような視線が、どうにも気持ち悪くて堪らない。そこから考えても、どうせろくなものではないのだろうなと思う俺の目の前で、そんな風に短いやり取りをして、男をやり過ごすことに成功したらしかった。
 ラルが再び歩き出すのに、俺はぴったりと付き従う。背中へと男の名残惜しそうな視線が突き刺さった。
 ラルの歩く速度が心持ち早くなる。おそらくはよほど腹に据えかねているのだろう。

「まったく。本当に無能なようだな。あれでは陛下も嘆かれるはずだ」

 そんな風に小さく吐き捨てている。
 正直な印象を言うと、俺も概ね同意見だった。
 それにしても。

「あの無能、否、男はいったいどんな噂とやらを聞かされていたんだろうか」

 あの視線からすると大方、俺のことを身持ちの緩い囲われ者か何かとでも思っていそうな様子だった。つまり男娼のようなものだとでも。

「大方の予想はつくが……ろくなものじゃないことだけは確かだろうね」

 俺の呟きに応えたラルの不機嫌は一向に治る気配がない。
 たとえどのような噂を聞かされていたとしても。噂の真偽を確かめようともせず、自分の都合のいいことだけを信じて言動に移す。否、もしかしたら男にとっては先ほどの接触こそが、真偽の確認のつもりだったのかもしれないが、あれほど明確に態度に示していては、そんなつもりがないことは明白だ。少なくとも、噂を疑っている様子などは微塵も感じられなかった。
 そんな風にあまりに無礼な誰だかもわからない男を皮切りに、その後も何人かの者たちに声をかけられたのだが、彼らの様子は概ね二手に分かれることとなった。
 噂にそもそも懐疑的で、本当に確認しに来ただけらしい者達と、噂をはじめから疑おうともしていないにもかかわらず、何らかのおこぼれにでもあやかろうとするかのような、あの男と大差ない反応の者達である。
 前者は俺を一目見るだけで、すぐに何かを思い直したかのように最後には非常に好意的な態度となるのに反して、後者の者たちの態度は不快なばかりで。たった数分、王宮を歩いただけでこれでは、ラルの言葉ではないが、国王の心労がしのばれるというものだとつくづく実感した。
 つまりこのアンセニース大王国にも、間違いなく腐敗は存在しているということに他ならないのだった。
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