【完結】初めて会うイケメンの旦那が甘やかしてくるんだが。ちょっと待ってこれどんな状況?

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
123 / 236

121・新たな火種②

しおりを挟む

 俺は内心で頷く。
 なるほど、これが国王曰くの不要な無能。
 おそらく地位ばかりが高くて能力のあまりない者なのだろう。
 少なくとも、人を侮ることだけは上手そうだ。
 無能、違った、男がわざとらしく、たった今気付いたとでも言わんばかりに俺へと明確に視線を向けてくる。
 先程から舐めるようにこちらをうかがってきていたくせに、ここでそんな演技をする必要があったのだろうか。
 内心で首を傾げる俺を尻目に、男はあからさまに侮蔑に満ちた眼差しを俺にぶつけてきた。
 ある意味ではコリデュアでさんざん王妃に向けられていたそれに似ていて、だが、比べてしまうとあまりに毒が足りない。
 それはそのままきっとこの無能の、違う、男の矮小さの表れなのだろう。

「それで、こちらが噂の・・……」

 言葉も当然嘲笑に彩られていて、ラルの機嫌があからさまに下降していくのが手に取るように俺にはわかった。
 それでもラルはにこと笑みを浮かべて見せている。

「はは。いったいどのような噂・・・・・・をお聞きになっておられるのかはわかりかねますが、彼がこの度、私の伴侶となった最愛であることは間違いない事実ですね」

 ラルの言葉はつまり牽制に他ならなかった。
 そうしていながら、俺の名前さえ男に教える気はさらさらないらしい。
 それはおそらく俺に男を正しく紹介しないのと同じ理由なのだろう。
 要はこの男がラルにとっても俺にとっても、不要であることが間違いないからだ。
 ラルの怒気を感じ取る程度の敏さなどなさそうな男は、当たり前にそれには気づかず、しかし、牽制されたことにだけは理解したのだろう。少しばかり鼻白む様子を見せて、ピクリと片眉を歪めていた。
 そんな風にすぐに顔に出る辺り、この男は何処までも底が浅い。正しく無能なのだろう。
 俺はラルの隣にでただひたすら大人しくしておいた。目の前の男にはラルの言葉に合わせて小さく目礼だけを返して。
 無視をするわけではないが、挨拶もしない。
 何故ならラルに紹介を受けたわけではないからだ。
 それに男は気付いているのかいないのか。

「おや? 噂は確かではないと?」
「貴方ならすでにお分かりでは?」

 そんなはずはないと言わんばかりの男の言葉に、ラルははっきりした返答など何も返さず、やはり如才なく微笑むばかり。
 これはますますいよいよ本当に、この男は不要らしい。
 ラルからは何も確かな返事を得ていないにもかかわらず、男はそんなことには一切気付かず、自分の言葉は否定されていないとでも解釈したのだろう、上機嫌に頷いていて、ああ、本当に全く何も伝わっていないのだなということがよくわかった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

息の仕方を教えてよ。

15
BL
コポコポ、コポコポ。 海の中から空を見上げる。 ああ、やっと終わるんだと思っていた。 人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。 そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。 いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚? そんなことを沈みながら考えていた。 そしてそのまま目を閉じる。 次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。 話自体は書き終えています。 12日まで一日一話短いですが更新されます。 ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

処理中です...