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120・新たな火種①
しおりを挟むそれ以上は王宮に特に用はなかったので、早急に帰ることにした。
「あの人は、性格があまり良くない」
ぼそりとラルが、俺にだけ聞こえる声でそんなことを言ってきたのだが、それは、国王などという立場にいる人間の性格がいいことの方が珍しいのではないだろうかと俺は思う。
国主が人が好いばかりでは、おそらく他国に舐められるだけだ。
そのようなものは基本的に王には立たない。
そういう意味では、コリデュアは例外と言えるだろう。
否、だからこそ今、あの国は……。
いずれにせよ、俺には関係のない話だ。
正直俺は、祖国ではあれど、コリデュアという国そのものに何ら関心を抱いてはいないので。あの国が今後どうなろうが、全くもってどうでもいいのである。
それはそれとしてとかく今は急ぐ方がいいだろう。
なにせ、青年の最後の言葉から、嫌な予感がしてならないのだ。
ラルも同意見らしく、心持ち行きよりも速足で馬車回しに向かっていたところ、案の定、背後からラルを呼び止める声が聞こえてきた。
「リヒディル公爵閣下!」
当然、俺の知らない声で、傍らのラルがひどく苦い顔をしたことから、どうやら歓迎できるような人物ではないようだと知る。
いったい誰なのか。
一瞬、聞こえなかったふりで無視しようとでもしたのだろう。大変に振り返りたくなさそうな様子を見せたラルは、しかし、溜め息を一つ、仕方がないとばかりに顔を取り繕う。
その一部始終が、傍らにいる俺にはわかったけれど、勿論それは俺以外にはわからなかったことだろう。勿論、ラルを呼び止めた相手にも。
ラルはしぶしぶ振り返る。
「おや? これはこれは。珍しいところでお会いしますね」
相手の名前を言わない辺り、もしかしたら俺が覚える必要のない相手なのかもしれない。
視線の先にいたのは、いかにも貴族と言う風貌の……つまりそれなりに恰幅が良く、必要以上に華美な装飾の施された服を着た壮年の男性だった。
多分年は俺たちの親か、ともすればその更に親ぐらいではないかと思う。
要はおじさんとおじいさんの中間ぐらいの年に見えるということだ。
その男性は嫌な目つきで値踏みするようにちらと俺を見た。
にやにやと口元に浮かべられた笑みが気持ち悪い。
「ああ、今日はたまたま王宮に用事があってね。私もまさか、閣下にこんな所で会えるとは」
はっはっは、と闊達そうに笑いながら、しかし男性は、若輩者だとでも言わんばかりに、ラルを見る目つきさえ、ラルを侮っているのがありありとわかる有様だった。
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