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119・招待に応じる⑫
しおりを挟む青年が溜め息を吐く。
どうやら俺と会う目的は、この会話だけで事足りたらしい。
「ありがとう、フィリス。大体事情は分かったよ。ラルは他に何か補足はあるかい?」
青年からの確認に、ラルは首を横に振った。
「何も。フィリスの言葉が全てです」
ラルの返答に、青年は何とも言えない顔をして、再度深く溜め息を吐く。
「はぁ。全く、ナウラティスの王族というのは恐ろしいね。こうも人を骨抜きに出来るなど……否、骨抜きにされた方は幸せなのかな?」
「陛下がご覧になったものが真実ですよ」
ちらとラルを見てのおそらくは嫌味に、ラルはにっこりと笑顔だけを返している。
いったい何の話なのか。俺はなんとも居た堪れなくなった。なにせいかにラルが俺に参っているのかという話なのだから。
嬉しくないわけではなく、ただ単純に照れくさい。
「よくわかったよ。わかりたくなかったけどね。なら、こちらはそれを踏まえて対処しよう。執拗に呼び立ててすまなかったね」
青年はうんざりしたと言わんばかりにそう吐き捨てて、話を締めくくりにかかった。
今日はこれで終わりなのだろう。青年がさっそくとばかりに席を立つ。
「すまないが、私もそれほど暇ではなくてね。今日はこれで失礼させてもらうよ。リヒディル公爵邸には改めて書簡も送っておこう。今回のお詫びも兼ねてね。後ほど確認しておいてくれ。ああ、そうだ、私が聞いた話だけれど、知っているのは私だけじゃないようだから、一応伝えておくよ。うちの国に無能は要らないから好きにしてくれていい」
国王なんて立場にいる人間が暇なはずがない。
その上、慌ただしく部屋を出ながら青年は、そんなことを最後に言い置いていった。
要は俺に関する間違った情報を持っているのは、青年、ひいては王宮にいる者だけではないということ。いったいあの王妃は何処までどんな情報を流しているというのだろうか。
加えて事実確認もせずに何かおかしな行動をする者に対する対応は、こちらに一任してくれるらしい。
おそらく先ほど言っていた後程届くという書簡には、それも踏まえて認められているのだろうなと思った。
ちらとラルを見る。
一応、笑みを浮かべてはいるのだが、その顔は非常にひきつっているようにしか見えなかった。
俺も概ね同じ気持ちで小さく微かに溜め息を吐く。
青年曰くの無能。
この国の中に、そういった者はいったいどれだけいるというのだろう。俺には全く見当もつかず、ラルに聞くのはもう少し後になってからにしようと思う。
今はラルのことなど、そっとしておくべきなのだろう。せめてもう少しばかり落ち着くまでは。
なにせ先程青年が言い置いた言葉。それは全く持ってありがたくない、新たな火種の予感に他ならなかったのだから。
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