【完結】初めて会うイケメンの旦那が甘やかしてくるんだが。ちょっと待ってこれどんな状況？

116・招待に応じる⑨

　そういうラルの態度が、嬉しくないと言えば嘘になる。
　だが今がそんな場合じゃないことも確かで。

「ラル」

　名を呼ぶ俺に、ラルはちらとこちらへ視線を寄越してきたので、小さく首を横に振ると、ややあってラルは仕方ないと言わんばかりに溜め息を吐いた。

「助かったよ、フィリス。あんな風にラルが怒ったままでは話しどころじゃないからな」

　言いながら青年が肩を竦める。
　それはほんの一瞬前までよりよほど気安い態度で、つまりこれがラルとこの青年の距離感なのだろうと悟った。

「いえ」

　青年から見ると、俺にあのような視線を向けるのは何もおかしなものではない。ラルのように逐一怒るようなこととは思えないだけだった。

「それより、確認させてほしい。ナウラティスということは、彼の国の王族ということか？」
「何をいまさら。わかっていて呼び出したんじゃないんですか」
「こちらに伝わってきた情報は、コリデュアの第一王子を名乗っている・・・・・・ということだけだ」

　改めて訊ねられ、ラルが吐き捨てると、青年はそんな言い方をした。

「名乗っている？」
「ああ。コリデュアの王城から連絡があってな。コリデュアの第一王子を名乗る俗物が、お前を誑かしたようだと言ってきたんだ。随分と恩着せがましい連絡だったぞ」

　青年の話は予想通りと言えば予想通りだ。そんな話だろうと思った。
　溜め息を吐く俺に、ラルの気配がまたしても尖っていく。

「何を、世迷言を……僕とフィリスの婚姻を提案してきたのは向こうだぞ」

　矛盾しかない。
　わけがわからないほど無茶苦茶だ。そんな話、ラルに直接話を聞けば、すぐに嘘だとわかりそうなものなのだが、そんなことにも思い至れない辺り、あの国の王妃らしいと言わざるを得なかった。

「元々あの国は信用に足るような国ではないからな。こちらとしても、コリデュアの言い分を信じたわけではない。だからこそ一度話を聞かなければと急いだんだ。コリデュア曰く、件の第一王子を名乗る人物は魔法魔術に長け、お前は操られているということだったからな」

　何処までも俺が一方的に悪者となるらしい。
　操る。
　ちらとラルを見る。
　明確に不機嫌な顔をしていた。
　こんなラルを？
　出来るか出来ないかで言えばできる。だが、それをしてどうするというのか。

「実際に操られているかどうかなど、会ってみればわかるだろうと思ったんだ。私はラルのことをよく知っているし、自慢ではないが、魔力探査のようなものも得意でね。もし本当に操られているとしたら、解除は早い方がいい」

　目はいいのだという青年に、なるほど、だからこそ再三に渡る招集だったのかと頷いた。