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107・予兆⑫

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 俺はそもそも服になど興味がない。
 みすぼらしくなく着られるのならばそれでいいと考えていて、ナウラティスで身に着けていた、今も来ている服だって、叔父やディーウィが薦めるがまま、言われた通りに着用しているにすぎず、服の値段や価値さえ、わからないまま、ただ、ナウラティスでも王宮に上がる時には着替えさせられていたような気がするので、多分、今着ている服ではダメなのだろうなということだけはわかっていた。

「一応、それ用に対応可能な服もありますが」

 王宮に上がれるような服を持っていないわけではないとディーウィが口を挟むのに、ラルはふるりと首を横に振る。

「いや、いい機会だし、僕だって彼に服を贈りたい。いけないだろうか?」
「いえ、こちらこそ差し出がましいことを申しました」
「わかってくれて嬉しいよ。今まで、彼の服は君が?」
「私と、後はアーディ様や陛下が」
「陛下……どっちの?」
「皇后陛下です」
「ふむ。かたも彼の叔父だったっけか」
「はい。アーディ様と陛下、またフィリス様のお母君はご兄弟でいらっしゃいますから」
「なるほど」
「資金は基本的にアーディ様がお出しになっておられました」

 会話はずっと、ラルとディーウィの間でのみ交わされていて、俺はその会話で初めて、自分の服を用意していたのが伯父たちやディーウィで、しかも費用は伯父が持っていたことを知った。
 流石に自分でもあまりに身の回りのことに頓着しなさすぎるのではないかと反省しきりだ。
 オーシュは明確に自分の管轄ではないという認識なのだろう、我関せずという顔をしていて、なんだか悔しい。
 俺はもしかすると自分自身についても、しっかりと認識しないといけないのかもしれない。
 実は魔法魔術関連で発生した金銭の管理もディーウィに丸投げ状態なのである。
 俺はいったい今まで何をやっていたのだろうかと気が遠くなりそうになりながら、これからはもう少し、状況を改善しておこうと思った。
 だからこそ、仕立屋を呼んで衣装を用意するだなんて、どう控えめに考えても面倒くさそうで、全く持って気が進まないのだけれど、これも必要なこととして受け入れるしかないのだろうと、そう覚悟を決めざるを得なかったのである。
 もっとも、今後はラルの隣に立つつもりである以上、これまでとは立場が変わるのだから、そんなこと当たり前ではあったのだけれども。
 ともあれ、今の俺にとって、更に続けて衣装のことについていくつか言葉を交わすラルとディーウィが、まだまだ遠い世界の住人に思えることは確かなのだった。
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