106 / 236
104・予兆⑨
しおりを挟むラルは何とも情けない顔をしていた。
それほどまで俺に伝えたくないのだろか。ますます、俺の予想が当たっているのではないかと、そんな風に思う。
ややあってラルは溜め息を吐いて、とても不本意そうに言葉を紡いでいく。
「王宮の意向そのものは、僕もはっきり把握しているわけではないんだ。ただ、あまりにしつこいところを考えると、私の君との婚姻を、歓迎していない、あるいは君を排除しようとしているのではないかとしか思えない。否、そこまでではなかったとしても、事実確認はしたいのだろう」
ラルの言葉は、何処までも、俺の予想を肯定するようなものだった。
つまり、それはやはり。
「君も、もう予想してそうな顔をしているけど、十中八九、コリデュアから何らかの連絡が、アンセニースの王宮へと入ったのだろうね。僕が君との婚姻を、まだアンセニースの王宮に伝えられていないと踏んでのことかもしれない。そもそも、コリデュアに勧められるままに、君と婚姻の手続きをしたこと自体、僕の想定していなかったことなんだ。当然アンセニースへの報告はこれから行う予定で……そもそも、アンセニースはたとえ貴族の婚姻であっても、王宮に届け出る義務を負わない。戸籍を管理しているのは王宮ではなく教会だ。だから、婚姻の届け出は教会に出すのが一般的なんだ。それは僕が王家と縁戚関係にあっても同じこと。王宮への報告の義務なんてない。本来なら王家は僕の婚姻相手にまでなにかしらを言ってくるような所ではないんだ。にもかかわらず、今回に限ってはどうしても君と直接に会いたいらしい……僕が警戒するのも、当然だと思わないか?」
つまり、ラル自身、王家からの呼び出しの意図がわからず、不審に思っているということなのだろう。
「俺に伝えなかったのも?」
「せめて王宮の意向が確認できるまでは知らせない方がいいかと思って。勿論、いつまでも王宮からの呼び出しを、引き延ばせるとは思っていないよ。だけど君は今まだ状態も安定していないだろう? だというのに、思惑のわからない所になんて連れて行けるわけないじゃないか! 君自身に知らせるのも、もう少し先でいいかと思ったんだよ。君に、余計な不安を抱かせたくなかった」
ずっと隠しておこうと思っていたわけではなかったらしい。
ただ、いろいろとラル自身が把握してからと、そう思っただけ。
それは間違いなく俺に対する気遣いで、ラルが言うように、俺の状態がまだ落ち着いていないのも本当だった。
子供を身ごもって数週間。
お腹に宿した子供が安定するにはまだ少しかかる。
俺も実際にアンセニースの王宮に行くのは、安定してからがいいと考えている。
そもそも、王宮からの呼び出しなど、何の準備もなく赴けるものではなく、そういった意味でも、もう少しばかり猶予が必要なのは確かだった。
19
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

息の仕方を教えてよ。
15
BL
コポコポ、コポコポ。
海の中から空を見上げる。
ああ、やっと終わるんだと思っていた。
人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。
そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。
いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚?
そんなことを沈みながら考えていた。
そしてそのまま目を閉じる。
次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。
話自体は書き終えています。
12日まで一日一話短いですが更新されます。
ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる