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102・予兆⑦
しおりを挟む「君を邪魔になんて思うはずがないだろう? 訪ねてきてくれて嬉しいよ。良ければそこにかけてくれ」
俺が自分を邪魔ではないかと言ったことが、どうやらラルとしてはよく思えなかったようなのだが、続けて嘘偽りなく嬉しそうに微笑む。
そこに宿るのは照れ臭くなるほどに真っ直ぐな俺への思慕。
共にある間中こんな瞳で見つめられ続けて、ラルからの愛情を疑う余地がなかった。
だが、そんなラルなのにもかかわらず、俺に伝えていないことがあるのである。
ラルは言いながら席を立ち、俺を、応接スペースのソファへと駆けるように促した。
勿論、ラル自身も隣にぴったりと寄り添うように腰掛ける。
「邪魔じゃないならよかった。――ディーウィ」
「はい、すぐにお茶をご用意しますね」
優秀な従者の名を呼ぶことで、茶の用意を言いつけてそれが供されるのを待ってから、改めて不思議そうにしているラルへと意識を向け直した。
そうしてゆっくりと口を開いていく。
「ラル、聞きたいことがあるんだ」
考えてもわからなかった。ならば聞くしかなく、その相手はラル以外にいない。そもそも王宮に呼ばれているのは俺で、どうしたって俺は無関係ではいられないのだから。
「うん、なんだい?」
「アンセニースの王宮から、俺へと招待状が来ていると聞いた。それも何度も。何故それを俺へと伝えないんだ?」
穏やかに、緩やかに。慈しみをもって微笑んでいたラルの顔が、俺の言葉でぴしりと固まった。
表情は一ミリたりとて動いていないはずなのに、今ははっきりと雰囲気だけで、ラルが怒っているらしいことがわかる。
それはいったい何に向けた怒りなのか。否、わかっている。そんなもの当然、
「……それを、いったい誰から?」
俺へと、そんなことを伝えた相手に対してだ。
なにせラルは、ラサスにまで命じて、それを俺に伏せていたのだから。
主人の意向に、いったい誰が逆らったというのか。
「再三、連絡が来ているのだと聞いた。相手が王宮である以上、伏せたままでいてはいけないのではないかと思ったのだそうだ」
「だとしても。いったい誰に仕えているつもりなのだか。主人の意向に沿えないというのなら、教育は初めからやり直しだね」
俺は敢えて誰とは言わなかったのだが、ラルはすぐに思い至ったらしい。
心底、腹に据えかねていると言った風に、顔を歪めるラルに、だが俺も概ね同じ意見なので、それ以上、彼の青年について何か言うのはやめておく。
言わずとも大丈夫だろうと思ったからだった。
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