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99・予兆④

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 オーシュもまた怪訝そうな顔をしていて、いつもと変わらない笑みを浮かべているのはディーウィのみ。

「呼び出しの理由とかは聞いていないみたいだった?」

 多分、聞いていないのだろうなとは思いつつ問いかけると、ディーウィは案の定ふるりと首を横に振って。

「そこまでは伝えれていないようです。きっとラル様でしたら何らかの推測はなさってらっしゃるのではと」

 そうだろうと思う。
 ラルならわかるのだろう。
 多分、だからこそ俺に伝えてきていないのだ。

「じゃあ、結局ラルに聞くしかないな」

 考えていたってわかるわけがない。
 そもそも俺はアンセニースの王宮のことなど全く詳しくなく、現王がどのような人物なのかさえ知らず。そこに潜む思惑こそ、知っているわけがなかった。
 なにぶん、思惑などおそらく何もないナウラティスはともかく、コリデュアの王城に蔓延る高位貴族たちの胸中さえ、慮ることが出来ないのである。それは偏に、彼らの思想は統一などされておらず、それぞれがそれぞれの計画に基づいて行動しているからであり、俺自身がそういったことにどうにも疎いところがあるが故だった。
 ディーウィは何か予想していることがあるのかもしれないが、おそらくはオーシュは俺と同じでそれさえない。
 つまり結局は何もわからないということだ。
 先程の青年はあくまでも執事見習で、俺は直接彼の紹介を受けていない。否、紹介を受けたのは実は執事長であるらしいラサスのみ。他の者は必要ないとでも思っているのか、それは俺に対する配慮なのか、それとも、俺に何も知らせずにいようとでもしているのか。
 囲い込まれていると感じる。
 ラルはもしかしたら俺を、狭い鳥かごの中に閉じ込めるかのよう、外の世界と切り離したく考えているのかもしれないと、そうも思えた。
 ともあれ、あの青年が責任ある立場の者ではなかったことだけは本当で、だからこそ、ラルの意向を外れて、俺に直接、王宮からの招待が届いていると伝えてきたりしたのだろう。
 ラサスもまた、ラルに従って俺に伏せているというのは大きな意味を持つ。
 おそらくは俺のみならず、俺の従者と護衛であるディーウィやオーシュにまで伝わらないようにしていたという辺り徹底していた。ただし、俺達三人にさえ伏せてしまえば、他から漏れる可能性はほとんどないので、俺たちに与える情報の管理はおそらくしやすいだろうとも思う。
 何故か。簡単な話、この屋敷の中で俺と接するのがほとんどディーウィとオーシュの二人のみ、あとはラルとラサスだけだからだ。
 基本的に俺との接触は、これまで本当にその4人に限られていた。
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感想 39

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