100 / 236
98・予兆③
しおりを挟むディーウィは程なくして戻ってきた。当然青年は伴っておらず、一人だ。
「お待たせしました、フィリス様。彼から話を聞いてまいりました」
にこと笑ってそう言って伝えてくれたディーウィによると、先程の青年の話というのはどうやらここ、アンセニース大王国の王宮からの呼び出しを、どうやらラルが俺には伝えず留めているということだった。
なんでも使者が何度も立てられていて、どうかと願われているらしいのだが、執事長であるラサスは、伝えると言ったっきり、主人であるラルには伝えているようだが、それまでで、『ぜひ、夫人ご本人にもお伝えください』という要請ははぐらかしているらしく、ラサスの隙をついて、先程の青年にもくれぐれもと言って来たとのことで、相手が王宮からの使者であることもあり、青年は困り果てて俺に直接、相談に訪れたのだそうだ。
正直な印象を言うと、ラルが俺に伝えないと判断し、ラサスにもそう徹底している以上、先程の青年の一存で、俺に伝えてしまったのは青年自身の未熟さが浮き彫りになっているようにしか思えず、やはりあまりいい話ではなかったなというのがそれで、同時に、そんな話が来ているという事実を、知れてよかったとも思う。
何分相手は王宮だ。つまりこの国のトップであり、いかに公爵位に就いているラルとは言え、逆らうのは得策ではない相手のはず。
なのにどうして俺にその話をしないのか。
ラルの思惑など、ラル本人に聞くしかなく、今夜にでも確認しておこうと考えた。
それにしても王宮からの呼び出し。
そこにはいったいどういった意図が含まれているのだろう。
リヒディル公爵家は数代前に王妃を輩出している。
つまりラルは現国王とも縁戚関係にあるのだと聞いた。再従兄弟と言ったか、その更に子供だと言ったか。
それほど親しいというわけではないが、仲は良好で特に問題などもないらしい。
にもかかわらず、そうであるならなぜ、俺へ全く伝えないのか。
ラルの婚姻は、王家としても全く無関係というわけにはいかない事象のはずだった。加えて相手は他国の王族である俺。
それらを思えば王家が無視できるはずもない。少し考えれば俺自身でだってわかる。ただし今まで全くそこまで考えが至っていなかったのだが、それに関しては、そもそも俺は自分自身の立場について元より大きな意味を見出していないからだった。
半ば以上放置されて育った弊害と言えるだろう。
それはそれとして、いったい王家にはどういった思惑があるのだろうか。
考えてもわからず、俺は苦い顔で溜め息を吐くことしかできなかった。
19
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

息の仕方を教えてよ。
15
BL
コポコポ、コポコポ。
海の中から空を見上げる。
ああ、やっと終わるんだと思っていた。
人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。
そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。
いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚?
そんなことを沈みながら考えていた。
そしてそのまま目を閉じる。
次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。
話自体は書き終えています。
12日まで一日一話短いですが更新されます。
ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる