【完結】初めて会うイケメンの旦那が甘やかしてくるんだが。ちょっと待ってこれどんな状況?

愛早さくら

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97・予兆②

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 部屋に招き入れると、青年はひどく緊張した様子でこちらをうかがってきた。
 俺が反応する前に、にことディーウィが印象のいい笑顔を青年へと向けている。
 そんなディーウィの笑顔に後押しされるように青年がおずおずと口を開いていく。

「急に、申し訳ございません、少し、ご相談したいことがありまして……」

 ちらちらと俺の方へ視線を投げながらの青年の言葉に、オーシュが警戒を強めた。ディーウィに視線を投げると、彼は心得たとばかり小さく頷いて、改めて青年へと向き直る。

「相談、ですか?」

 そうして言葉でも、自分が先に用件を聞くと示して見せた。
 青年はなおも躊躇う様子を見せながら、だけどそのまま話すことにしたらしい。
 俺は目を細め青年を見る。おそらくはオーシュも同じような眼差しで青年を見ていることだろう。
 この青年の顔は見たことがあった。だが、見たことがあるだけで、決して、俺達へと直接何かを伝えに来るような立場には居なかったはずだと把握している。
 ラルもラサスも通さずにこの青年一人で俺たちの元へときた。それだけで怪しむのに充分だったのだ。

「はい。奥様に、お伝えしておかなければと」

 いったい何を伝えるというのか。おそらくは不審が顔に出てしまっている俺とオーシュに反して、ディーウィは隙のない笑顔のままで、流石だと思いながらひとまずの対応は彼に任せた。

「なるほど……でしたら私が先にお伺いいたします。構いませんか?」

 にこと変わらない笑顔でディーウィが告げ、そのまま青年を部屋の外へと促していく。

「え、ええ」

 まるでディーウィに押し切られるかのかのように青年は躊躇いながら、だけど確かに頷いて、ディーウィに逆らわず踵を返した。

「フィリス様には私からお伝えしますから。それでよろしいですよね?」
「か、構いません、ですが、きっと全部を……」
「勿論、フィリス様も貴方からお話があることはご理解なさってらっしゃいますからご安心ください。ですが、何事も順番というものがございますから、まずは私が……」

 などと言葉を交わしながら二人が部屋を出ていく。
 いったい何の用で、どんな伝えたいことがあるというのか。
 おそらくディーウィだって知らないはずで、だけど彼はどうやら俺には直接聞かせたくないとでも言うかのように、青年を部屋から追い出してしまった。
 残ったオーシュに視線で問いかけると、ふるりと首を横に振って、心当たりはないと示す。
 俺も同じく心当たりなど全くなかった。ただ、あまり良くないことなのだろうなということは感じられていて。おそらくはだからこそ、ディーウィも青年を部屋の外へと促したのだろうことだけが確かなことだった。
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