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96・予兆①
しおりを挟む二人に共通しているのは、魔法魔術が苦手ではないということぐらいだ。
それ以外となると、基本的に彼ら二人は正反対と言えて、小柄で魔法魔術はもとより、剣術などの武力にも長け、反面、頭を使ったり、ややこしいことを考えたりすることは得意ではなく、態度も悪ければ口調もぶっきらぼう、直情型で気も短いオーシュと、大柄で穏やか、自分に厳しく礼儀正しく、よく気が利いて頭もよければ知識も多い代わりに、実はあまり体を動かすようなことは得意ではないディーウィは、幼馴染みであり、恋人同士でもあった。
年は俺よりも5つ上。つまりラルと変わらない。
二人で共にあれる職場を探していて、能力値にも人格にも問題がなく、二人ともに身分も含め、信用に足るということで、伯父からの紹介で俺に仕えてくれることになった二人である。
しかし、俺は正直な所、この二人がこうして国外にまでついて来てくれるとは思ってもみなかった。
もっとも、そもそも俺自身もまさかこうしてナウラティス以外で過ごすことになるとは、コリデュアに向かう時には予想もしていなかったのだけれども。
そういった事情もあり、余計に二人には負担をかけていると気に止まずにはいられず、かと言ってわざと彼らを遠ざけるほどには彼らに対しての信用がないわけでもなく。ただ、俺がこうして暇に思っているのと同じだけ、彼らが余裕を感じられたらいいと思った。
ディーウィが穏やかに微笑みながら、慣れた仕草でお茶を用意してくれる。
ことり。テーブルに置かれたそれに手を伸ばした。
口をつけると、俺が一番おいしいと感じる茶葉と入れ方で、流石だと内心で感心して、ほぅっと深く息を吐く。
時間がひどくゆっくりと流れているように感じられていた。
要するに結局はただただ退屈なのである。
いい加減ラルに相談しようかなどと考え始めていた俺は、意識の端、引っかかったものがあり、カチャ、微かなと音と共に手にしていたティーカップとソーサーをそっとテーブルの上に戻した。
「オーシュ」
短く名を呼ぶと、彼も心得たもので僅かに緊張を体に巡らせる。
俺はすぐに部屋を満たすほど広げていた結界の範囲を狭めた。
まるでそれを待っていたかのように、室内にノックの音が響く。
オーシュを見ると、首を横に振っている。俺はひょいと肩を竦めた。
「ディーウィ」
今度、呼んだ名に応えた彼は、了承の代わりにニコと微笑んで扉へ向けて歩いていく。
ディーウィが扉まで辿り着くのと、誰何する前に相手が名乗るのが同時。
相手はどうやらラサスの下に就いている、執事見習いの青年のようだった。
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