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90・俺の話⑫
しおりを挟む考えてみればラルのことも不思議だと思う。
なにせ俺のことを好きだというのだ。こんなにも何もない俺のことを。
「伯父は俺にいろんなことを教えてくれた。多分、伯父は俺のことを人間にしたかったんだと思う。浮浪児とか、野生児とか、もしくはいっそ、生きているだけの存在などではなくて、普通に、人並みに、ただきっと皆が当たり前に貰っている何かみたいなものを、俺にも与えようとしてくれた。俺の今まではおかしいのだと否定して、『君はもっと世界を広げるべきだ』なんて言って。俺は特に抗う意味も見いだせなかったから、全部伯父の言うとおりにした。勉強して、学園でもやっていけそうだなってぐらいになったら、学園に入った。名目上の、俺がナウラティスにいる理由だった留学を、本当にするためにね。そこから今まで、俺は概ね周囲が促すままに何もかもに従ってきているんだ。だって、抗ってまで拘りたい何かなんて、今だって何もないままだから」
コリデュアに帰ったのは、一応自分の立場がコリデュアの第一王子のままで、ナウラティスには留学に来ていたってことだったから、なら報告はしないといけないのかなって思っただけだったし、そもそも、そんな所にまで思い至ったのは、周囲にいた誰かに、
『国には帰らないのか? 留学してきてるってことは、別に国があるんだろう?』
だとか言われたからだった気がする。
そこで俺はそういえば自分がまだ立場上はコリデュアの第一王子であることを思い出して、伯父に、どうすればいいのかを一応相談したんだ。報告に帰る方がいいのかって。
伯父は反対しなかった。ただし、後押しもしなかったけれど。
そうして、コリデュアに帰ってきたら……――ラルがいたのだ。
俺の伴侶なのだとそう言われた。全く見も知らない。だけど、かっこいい男性。
その後もつまり、どうでもよかったから全部従っただけで。そのまま、今もこうしている。
俺はどうしてだろう、なんだか妙に不安を感じていた。
俺は自分がおかしいという自覚がある。
ナウラティスでの日々は、それを俺に悟らせるに充分なものだった。
父もおかしければ王妃もおかしくて、コリデュアという国は、どうやらあまりいい印象の国ではないらしいということも知った。
ただ、それを知ったところで、ならばどうするのかと言われると……別にどうもしないのだけれど。
俺はおそらく、どう考えてもおかしいのだろう。だが、それがいったいどうしたというのだろう。俺が周囲の人と違っていて、違い過ぎていておかしい。だけど、それにいったいどんな問題があるというのか。
俺には結局、今も。何もわからないままなのだ。何もかもがどうでもいいままで。
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