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84・俺の話⑥
しおりを挟む父は別に王妃と仲が悪いわけではない。
元々子供の頃から交流があって、気心が知れている以上、父にとっての王妃は、良くて妹、悪いと古くからの知り合いだ。
王妃として迎え入れておきながら、妻としてなど全く扱ってはいなかった。
言ってしまえば、無関心、あるいは放置である。
何か用もない限り近づきもしなければ指図もしない。勿論、王妃のどんな行動だって咎めたりしなかった。
否、そもそも関心がなさ過ぎて、王妃の行動なんて、目の前の言動以外おそらくは何も把握していないのではないかと思われる。父の関心は良くも悪くも、今も一途に母にしか注がれていないのだ。
「もっとも、俺の弟になる、王妃の生んだ後継となり得る王子は父の魔力では育っていない。核こそ父で多分間違ってないんだろうけど、王妃の妊娠中も父の様子は変わらなくて、数ヶ月国を空けて母の元を訪ねたりもしていたらしい。王妃がどうやって弟を育てて生んだのか俺は知らないけど、今の俺からすると、王妃もかわいそうな人だなって思うよ。でも、拒絶していた父に、強引に嫁いで来たって言うんだから、ある意味では自業自得だとも思うけどね。王妃は、そんな自分が不遇である苛立ちのようなものを全部、俺に向けてきた」
父には向けられない。でも、そもそも今の状況を受け入れたのは自分だ。かと言って、許容も納得も出来なくて、募った苛立ちのぶつけ先は、腹立たしくもすぐ傍にいた幼い俺。
もし、俺さえいなければ。
たとえ俺がいなくとも、父の様子が変わるはずがないし、王妃を父が尊重する未来なんてあり得ない。
それでも王妃にとって、俺が邪魔なことに変わりはなくて。
「特に俺は出自が出自だ。父はともかく、母がナウラティスの王族なのは揺るぎようもない事実。この近辺で、大国であるナウラティスに敵う国なんてない。それでなくてもコリデュアは小国で、決して豊かだなんて言えない国なんだ。そこに第一王子という立場でナウラティスの王族の血を汲む俺がいる。いくら俺が後継に認められなかったからと言って、俺の方がこそって推す声が皆無なわけではなかったらしくて。余計に王妃にとって俺は本当に邪魔になった」
なにせようやく生み落とせた正統なる後継者たる自分の息子の立場を、脅かしかねない存在なのだ。
排除に動くのは、王妃の性格を鑑みても、何もおかしなことではなく。
「王妃は、俺の食事に毒を盛った。多分俺を、なんとかして殺してしまいたかったんだろう」
だけど、結局それは今まで一度も成功していない。
だからこそ俺はこうして今ここに、存在しているのだから。
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