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82・俺の話④
しおりを挟むこの世界では、子供を成すためには、母体となる人間に魔力を注ぐ必要があって、当然注いだ相手が父親となる。その後、子供を育てるにも魔力が必要なのだけれど、一般的に、それは両親二人だけの魔力であることが多かった。
多くの者の感覚として、自分が伴侶だと思う相手に、自分以外の誰かの魔力が混ざるのを、嫌だと思う故だった。
注ぐ方も、注がれる方も、相手以外を忌避する。
俺も正直、実は今、ラル以外の魔力など、ほんの欠片でも少しだって受け入れたくない。俺は自分がそんな風に思うことに驚いていたりもするのだけれど、そういう忌避感自体は、ごくごく一般的なものだった。
ラルも多分俺に、誰かほかの魔力が混ざるのは嫌だと思っているはずだ。
それはおそらく、父もだったのではないかと思うのだけれど、何分相手が母である。そんなことには捕らわれず、当たり前に父以外の魔力も受け入れた。
そういった場合、つまり、子供が成って生まれるまでの10ヶ月と、生れてからの1年の間に魔力を注いだ人間、そしてそもそも子供の核となった魔力の主、また、子供を取り上げた当事者。通常は一人であるはずのそれらが複数人であった場合、その複数人全員が、父であるとすることが可能だった。と、言うよりは、それらは子供の存在自体に多大な影響を与えるのだ。
そう言った存在の根幹を形作るのに携わった人間はすべからく全員が親である。
だから俺は父親が複数人いるということも出来て。
「王妃は多分、それを踏まえて、俺を父親がわからないって罵るんだろう。いくら父が俺を成した時は自分だけだったのだと言っても、そんなもの信用できないって。俺の父親がわからないっていう王妃の考えも、今にして思うと、俺だってわからないわけじゃない。むしろ納得できるとさえ思ってる。実際、王妃と同じ考えの者がコリデュアには幾人もいて、その所為で父は俺を後継と出来ず、王妃を迎えざるを得なくなったんだ。父がいまだに一年のうち、何か月も国を空けて母の元へと通っているのは、父が王妃を迎えるに当たっての条件だったらしい。だから諦めて欲しいって気持ちも父にはあったみたいだ。なのにそれを王妃は受け入れて王妃になった。だけど面白くないことに違いはないから、執拗に俺を狙ってるんだろう。俺の存在自体が、王妃にとっては疎ましくて仕方ないんだ」
もし俺が父の子供ではなかったとしても、母の子供であることは間違いようがない。つまりナウラティスの王族の血を間違いなく汲んでいるということだ。
それは王妃にとって、どれほど癪に障る事実だったことだろうか。いずれにせよ俺にはよくわからない感覚ではあるのだけれど、とにかく王妃が俺を疎んじていることは確かだった。
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