82 / 236
80・俺の話②
しおりを挟む母のことを話し始めると、ラルは何とも言えない顔をする。オーシュとディーウィも顔をしかめていたが、それでも今の所、口を挟むつもりはないらしい。
「それはまた、なんと言えばいいのか……独特なお母様だね……」
絞り出すようなラルの感想に、俺は小さく噴き出した。
「はは。そんなむりやり、なんか言わなくていいよ。でも、どう考えてもおかしいってことだけわかってくれたらいい。とにかく母はそんな風に、出自に反して、性質に問題がある人なんだ。当然、ナウラティスには居られなくて、属国であるリリフェステ公国の魔の森に囲まれた地域にある、離宮で普段は過ごしているんだけど。ああ、ちなみに母自身は別にナウラティスに入れないってわけじゃない。母の相手を出来る人が、ナウラティスにはなかなかいないってだけの話だよ。母は被虐趣味でもあるらしくって、ひどくされるのが好きなんだって。でもナウラティスにはそういう人は、基本的に珍しいからね。相手を求めて国を出てるんだって聞いてる」
全部伯父から聞いた話だ。俺は何も知らなかった。
今となっては、こんなこと知らない方がよかったんじゃないかとも思うのだけれど、でも、知って納得できたこともあった。
「母はいくらでも子供を産むけど、子供を育てたりは一切しない人なのだそうだ。生まれた子供の存在を固定させるために、最低限、生後一年は授乳をするけど、やることなんてそれだけ。自分の生んだ子供の名前さえ覚えていないような人なんだって聞いてる。生んだ後の子供には、基本的に興味を示さないって。俺と初めて会った時、へぇ、そうなんだ、みたいな反応でさ。会いたかった、だとかそんなものも何もなかった」
それが寂しかったのかと言われると、実の所そうではない。俺の方だって母になど、全く興味がなかったからだ。
「まぁ、当たり前に考えて、常にそんな行為に耽っているような人に、子供なんて育てられるわけはないよね。母は本当に際限なく、常に誰かを求めているような人で、当然、相手は一人では追い付かなくて、常に何人かが母の側にいるんだって。俺が母に会った時も、やっぱり寝室で。母は勿論、一人じゃなかった。伯父が窘めてくれて、辛うじて最中ではなかったんだけど、ほんのつい今までそんな行為に耽っていたんだってことが、子供の俺にでも明確にわかるような状況だったよ」
実際に俺が母と会ったのは数えるほどだ。伯父に連れられて母に会いに行った。これまでのこと全てに納得できてしまうような母だった。
19
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。


繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
志麻友紀
BL
「婚約破棄の慰謝料だが、三十六回払いでどうだ?」
聖フローラ学園の卒業パーティ。悪徳の黒薔薇様ことアルクガード・ダークローズの言葉にみんな耳を疑った。この黒い悪魔にして守銭奴と名高い男が自ら婚約破棄を宣言したとはいえ、その相手に慰謝料を支払うだと!?
しかし、アレクガードは華の神子であるエクター・ラナンキュラスに婚約破棄を宣言した瞬間に思い出したのだ。
この世界が前世、視聴者ひと桁の配信で真夜中にゲラゲラと笑いながらやっていたBLゲーム「FLOWERS~華咲く男達~」の世界であることを。
そして、自分は攻略対象外で必ず破滅処刑ENDを迎える悪役令息であることを……だ。
破滅処刑ENDをなんとしても回避しなければならないと、提示した条件が慰謝料の三六回払いだった。
これは悪徳の黒薔薇と呼ばれた悪役令息が幸せをつかむまでのお話。
絶対ハッピーエンドです!
4万文字弱の中編かな?さくっと読めるはず……と思いたいです。
fujossyさんにも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる