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78・ラルの話⑭
しおりを挟むそもそも、今の話だとラルは俺と自分とをあまりに違うものとして受け止めすぎている。
それだったらいっそ、傷つけたかったと言われている方がましだ。
俺に傷をつけられない、だなんて。
それは確かに、俺は痛いことなんて全く微塵も好きではない。
だから、怪我などをしたら治癒魔術で自分で治すし、怪我などしないようにも心掛ける。それはラルと体を合わせる時も同じで、苦しみたくなどなく、そうせずに済む術が予めわかっているのなら、わざわざ自分から苦しむために、それを使わないだなんてことを、選択するほど俺は酔狂ではないというだけの話。
出来るからやった。痛いのは嫌だから魔術を使った。ただそれだけだったのに。
それがまさかいけなかったというのだろうか。
理解できなかった。
でも、俺がそうしたことによって、ラルは俺と自分との違いを思い知ったのだという。何故そんなことを言うのか。傷つけたかったというのなら傷つければよかったのだ。もっともそんなの、俺は甘んじて受け入れたりなんてしないのだけれど。
受け入れないから、距離があるのだろうか。受け入れなければ距離が縮まらないとでも? でも。
「それは、今も?」
思わず、口を挟んだ俺に、ラルは一瞬きょとんと眼を瞬かせて首を横に振った。
俺はそれに、少しほっとする。
よかった。今は最初よりよほど距離など縮まっていると俺は認識していた。それは決して勘違いなどではなかったのだろう。
「まさか! そんなの、初めだけだよ。初日の、あの馬車の中、君を初めて抱いた時だけの話だ。僕は正直、自分の凶暴性が怖くなって。それもあってそれ以上は出来なくて、一度熱を吐き出して、少し冷静になれたのもあって、あの時は一度きりでやめられたんだ。君を気遣ってというのも、嘘ではないんだけれどね。馬車の中、その日の宿に着くまで。僕はやっぱり君のことしか考えていなかったよ。後悔していたし、でも触れることが出来た、それが嬉しかったのも本当で。君と僕とは違う。僕は君に敵わない。でも、だからとって、君の近くにあることを、諦めたくなんてなかった。一分一秒、君と同じ時を過ごせば過ごすだけ、君に惹かれ続けていたんだ。君が愛しくてならなかった。君が好きで、自分でも怖いぐらいに君のことしか考えられなくて、君がいればもう何もいらないとまで思い始めた。そんな自分に戸惑って、でも、嫌じゃなくて。……――今も、僕は毎秒、君をもっと好きになってる。君に惚れ続けている。だから、君に少しでも近づきたくて。少し、君に触れる頻度が高くて、君には負担かもしれないけど、でも」
好きで。
そう、真摯に俺に告げるラルの眼差しは火傷しそうなほどの熱を宿して。やはりどこまでも熱烈で。俺は頬が赤く染まるのを、いつまでも止められそうにないままだった。
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