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75・ラルの話⑪
しおりを挟むあてられたのかもしれないな、と俺は思った。
あるいはラル自身に元々そのような素養があったのか。そこまでは俺にはわからない。
ただ、言い方は悪いかもしれなけれど、俺の父は言ってしまえば頭がおかしいのだ。少しばかり常に正気ではない。それは王妃も同じだ。こちらはもっとわかりやすく歪んでいる。
そんな者たちと短時間であれ接して、影響を全く受けなかったはずがない。
その証拠のように、今、こうして接しているラルは、コリデュアで初めて会った時よりもずっと、印象が良くなっている。もっとも、あの時から別に印象は全く悪くなかったのだけれど、ただ何を考えているのか全く分からないとは感じていたので。今はそんなことはなかった。わかりやすすぎるぐらいに、俺への愛が見て取れる。
ちなみに俺は、俺自身、まともではないと自覚している。だからこそ余計に俺は俺になど何の意味もないだろうとしか思えないのだけれども。
ラルの話はまだ続くらしい。
「実際に君に会えることになったあの日は……コリデュアに滞在し始めて、どれぐらいだったかな……それほどは経っていなかったんだけどね。予想していたよりもずっと早く会えて、嬉しかったなぁ……引き止められるままに滞在した甲斐があった。正直、あと数日経っていたら、いったんアンセニースに戻っていた所だったよ。突然、君が帰ってくると聞いて、国王から君へ僕のことを伝えてくれることになって。そして」
あの日。あの、予想もしていなかったいきなりの邂逅になったのだろう。
俺としては、実はいつの間にか見ず知らずの男性と婚姻を結んでいただなんて、全く寝耳に水もいい所だった。
何も聞いていなかった。
もっとも、周囲の誰もがわかっていなかったはずがないのに指摘しなかった所為で、ナウラティスに行ってからの6年間、帰ることの先触れ以外で本当に全く1度もコリデュアに連絡を取らなかった俺も俺なのだけれども。
せめて父にぐらいは連絡を入れておいてもよかったのではないかと思う。妨害なく、正しく連絡が取れたかはともかくとして。
反対に父からの連絡も1度もなかったのだけれども。それに関してはもしかしたら伯父には問い合わせなどがあったのかもしれない。伯父が敢えて俺に伝えなかっただけという可能性はある。
伯父はずっと俺にコリデュアとの縁を切らせたがっていた。でも、俺の意思を尊重して、強要まではせず。俺はそんな伯父に守られるようにして6年間を過ごしたのだった。
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