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73・ラルの話⑨
しおりを挟む王妃にとっては、俺が一番初めに感じた印象そのまま、本当に厄介払いか何かのつもりだったのだろう。俺の存在自体が邪魔だから、他国の高位貴族が求めているのならば差し出す、その程度の話。
勿論、僕に金銭的援助など一切しない。それを条件に盛り込んで。同時にラルから何か搾取するでもなく、逆側も同じ条件としたのは父の方だったのかもしれないと思った。
多分父は、俺をコリデュアから解放したかったのだ。あるいは王妃の手の届かない所へ行く方がいいとでも思ったのか。
ラルに、俺に対する熱意というか、好意の大きさを見たのも本当だったのではないかと思う。ラルならばと、父は思ったのかもしれない。それにしても、俺に一切の話なくというのはどう考えてもおかしいのだけれど。父は元々少しばかり浮世離れしたところがあり、父ならばそういったこともしそうだと俺は思っている。なにせ同じ王城内で生活しているはずなのに、王妃の俺に対する仕打ちに本当に気付いていなかった父なのだから。ぼんやりしているにしてもほどがあるというものだろう。多分父は母以外のことはあまりたくさん考えられないのだろう。一途だと言えば聞こえはいいかもしれないけれど、おそらく父は本当に母のことしか考えていないのだと思う。空想の中に生きているとでも言えばいいのか。俺と話す時でさえ、話題の八割はその場にいないどころか、国内にさえおらず、父ともほとんど会っていない母なのだから、相当だろう。
ちなみに実は父はいまだに母のもとへと通っている。年に一度程度、数か月かけて。なにせ母が普段いるリリフェステとコリデュアは離れている。そこへ向かうだけでも一月以上かかるのである。滞在日数がいかに短くても、行って帰るだけでいったいどれだけかかることか。当然その間は国を空けた。父がいない間、国は王妃と王妃の親族の物同然となる。そして父はそれに頓着しなかった。
多分父は元々王になどなりたくなかったはずだ。だがそれは許されず、加えて父が求めてやまない相手が母だったがゆえに周囲に説得され、剰え母以外を王妃とせざるを得なかった。母は王妃になる意思など欠片もなかっただろうし、そもそもそんな立場に甘んじられるような人物でもない。
母のもとへ通い続けるのは、父なりに現状に対する最大限の譲歩なのではないかと思う。
その所為で王妃はより執拗に俺に憎しみを向けるようになっているような気もするのだけれど。
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