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70・ラルの話⑥
しおりを挟む否、確か伯父が母に出させていたのだった気もする。曰く、いくらコリデュアに預けたからと言って、無関係になれるわけもないんだから、親としての責任を持てとかなんとか。
母は肩を竦めて、
『まぁ、いいけど』
などと軽く了承して、すぐにも金銭的な援助を行ってくれたのだそうだ。
子供一人、学園に行かせるぐらいのお金なんて、全く何の負担にもならないからと。
加えて、俺が母の子供であることは間違いなく、つまりナウラティスの王族に名を連ねる者となる。母の子供皆がそうあれるわけでもないのだそうだけれど、俺はとくに預け先が他国の王家だったのもあり、権利のようなものはなくなっていなかったのだとか。
そちらからも、あるいは伯父個人でだって、いくらでも支援は出来るということで、ナウラティスで俺が困るようなことは何もなかった。
ただ、俺個人の感覚としては、そういった意味でも伯父に頼りっぱなしというのはなんだか座りが悪く、自分自身で稼げる手段があるのならそちらの方が気が楽で。だから、発表した魔法魔術、あるいは魔道具で金銭を得られたのはとても助かる話だった。
ラルはじっと俺を見ていた。穏やかな笑みを浮かべたまま、何処かうっとりと見惚れるように。
それは、本当に俺を慕っているのだなと、余さず伝わってくるような表情である。
「僕はそれからずっと君に夢中なんだ。少しでも近づきたくて、一目でも会いたくて。でも君がいたのはナウラティス帝国だ。そもそも、入国できる人間が極端に限られている国。僕も勿論ポータルでね。転移しようとしたんだよ。でも出来なかった。あの国の結界は、ポータルでの転移さえ弾くからね。僕は悪意や害意を一切抱いていないというほど清廉じゃない。特に君に対しては欲望でいっぱいだ。初めからあの国に、入れるはずなんてなかった」
そう言ってラルは、少しだけ寂しそうに笑った。
確かにラルはナウラティスの結界に弾かれるのだ。だからこそ今、俺は自分自身に結界を施していない。それはラルと触れ合うための措置だった。
俺は思わずラルへ向かって手を伸ばしていた。
ラルが迷わず俺の手を掴んでくれる。そっと、大切に、包み込むように。
今は触れ合える。そんな距離に居られているのだ。
ラルの真っ赤な瞳は、ただ真っ直ぐに俺だけを見つめていた。
「ナウラティスにいる君に、僕は近づけない。その手段がない。アンセニースはナウラティスと同盟関係にあるけれど、いくらそこの公爵家の人間だからと言って、入国さえできない者がナウラティスの国民、しかも王族になど、会えるはずがなかったんだ。でも」
そこでいったん言葉を区切ったラルは、何か腹立たしいことを思い出したとでも言うかのように、途端、気配を尖らせ始めていた。これはつまりコリデュアのことを。考えているのだろうなと俺は思ったのだった。
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