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68・ラルの話④
しおりを挟むだが、それは貴族の跡取りとしては、特に珍しいものでもなかった。
王立学園のような場所へ入学するまでは家庭教師などを雇い家で教育を施され、学園を卒業してからは家の手伝いと、引継ぎに従事する。
何もおかしなことではない。
それはナウラティスでも同じだった。
「父の手伝いも、別に苦ではなかった。元々距離があって、親しく話すというようなこともない親子関係で、寡黙な父と、特に必要を感じない限りは口を開かない僕と。共に過ごす時間が増えても会話が増えることはなく、父について仕事をしていたって、僕達の間にあったのは沈黙だけ。でも僕はそれを苦にも思わない。父も多分、同じだったんじゃないかな」
当時を思い出しているのだろう、言いながら少し遠い目をする。今、こうして自分のことを話しているラルからは想像できないのだが、父親の前ではラルも寡黙だったということなのだろうか。
少し疑問には思ったけれど、俺はおとなしく話を聞き続けた。
「うちみたいな公爵家だとかいう高位貴族だと、世界の情勢ってのはある程度把握しておかなければならない。それはフィリスもわかるだろう? だから、詳細にとまでは行かなくても、新しい魔法や魔術の発表だとかそう言ったことにも一応はざっくりと全体的に目を通すようにしていて。初めてフィリスを知ったのは、そういった情報の一部。映像媒体の中でだった」
なるほどと俺は内心で頷いていた。新しい魔法や魔術の情報というのは、何処に発表するかによっては国を超えて広まっていくものだからだ。
ナウラティスを中心に、この近辺の国の多くでは同盟が結ばれていて、国を超えての魔術士協会のようなものがあり、その中で魔法魔術に関する情報もある程度は共有されている。特に国の防衛に直接かかわらない可能性のある分野だとそれは顕著だ。具体的に言うなら、生活に根付いた新しい魔道具の開発など。俺が良く携わっている分野だった。
勿論、国によっては秘匿されている技術などもあれば、魔術士協会に加盟しているからと言って、必ずしも情報は開示しなければならないというわけでもない。それでも、日々多くの技術や発明が発表されていて。
俺はナウラティスに渡ってから、特に最初の2年ほどそれまで満足に倣うことが出来なかった反動なのか、とにかく学ぶということに夢中になっていた時期があった。
周りも、むしろそれを望んでいるように俺は感じていたものだから、色々な研究にも昼夜を忘れて没頭した。
その中で周囲に促されるままにいくつかの魔道具を発表している。細々としたものも含めるとあまりに数が多いため、どれをどの時期に、などということさえ覚えてはいないのだけれど。
多分そのうちにどれか一つを、ラルは目にしたのだろうと思った。
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