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65・ラルの話①

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「俺がラルのことで知っていることなんてほとんどない。コリデュアでが初対面だったし、それまでラルの存在なんて全く知らなかった。だからいろいろと教えてくれると嬉しい」

 気を悪くするかもしれないとも思ったのだけれど、誤魔化すようなことでもないので正直にそう告げる。
 俺の言葉を受けて頷いたラルは、

「うーん、そうだなぁ……」

 しばらく考えて。

「うん。お互いのことをって言ったけど、ひとまず、なら、僕が君のことをどれぐらい知っているかを話してもいいだろうか。もっとも、僕の方もそれほど多くはないんだけどね。だから、どちらかというと、君のことを好きになった経緯、かな……僕の、これまでの話だ」

 などと確認を取ってくる。俺はこくりと首肯した。
 言われてみれば気にならなくもない。映像媒体で、というのは以前に聞いたとは思うのだけれど。

「ふふ。ありがとう。僕はこう言っては何だけど、小さい時から出来がいい方でね。大抵のことは言われた通りに出来たし、叱られたこともほとんどない。生まれはここ、リヒディル公爵家の長男だ。兄弟はいない。それというのも、母が早世してしまってね。前公爵である父は、実はそこそこの高齢で、何があったのか、詳しく聞いたことがないんだけど、母と出会うまでは、結婚するつもりも子供を作るつもりもなかったのだそうだ。後継は親戚筋の何処かから適当に迎えればいいと考えていたそうなんだけど、壮年になって母と出会って僕が生まれた。父は大変に母を愛していたと聞いているよ。愛していたというよりは、ひどく執着していたと言えばいいのか。だけど母は非常に儚い人で、僕が生まれて数年。まだ小さい時に亡くなってしまったんだ。物心つく前だったものだから、僕に母の思い出はほとんどない。時折、父が見せてくれた母の写真から、大変に可愛らしい人だったというのがわかるくらいだ。後で君にも見せてあげるよ。そうだなぁ、少しだけ君に似ている気もするね。君は見た目だけなら、とても儚いから。なんでも、母は生まれつき障害を負っていて、初めから長くは生きられないような状況だったんだそうだよ。たとえ父と結ばれても、父のことも子供のことも残していくことになると拒絶した母に父がそれでもと縋ったのだとか。そんな事情から、僕に兄弟はいなくて、小さい頃から母さえもいなかった」

 随分詳しく教えてくれるのだなと思いながら、俺はラルの話を興味深く聞いていく。
 一人っ子だというのは少し意外だった。
 でも、この屋敷の中に、たとえばラルの両親だとか兄弟だとかという気配がないことには納得した。
 初め・・からいなかったということなのだろう。
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