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64・今更な提案
しおりを挟むちなみに俺はラルのことなど、全く何も知ってはいない。
アンセニース大王国のリヒディル公爵家の現公爵で、俺とはすでに婚姻が成っていて、俺より5つ年上。
そして今、俺のお腹になっている子供の父親だ。
俺のことが、好きらしい。
俺が知っているラルのことなんて、本当にそれで全部だった。今まで全く気にしていなかったし、知ろうとも思ったことがなかった。
今、ようやくラルに興味を持ったと言っても過言ではなく、もしや俺たちの間には、会話が足りなさすぎるのでは? などということにまで思い至る。
特に、襲撃者や薬物等の混入を実行した人物など、発生している問題へ対処する必要がある状況、互いへの理解は深めておいた方がいいだろう。
そう判断した俺は、やるせない表情のままのラルを前に、こんな提案をしてもいいのだろうかと一瞬、躊躇した。
こんな提案とはつまり、お互いのことをするためにも、少し会話を増やさないかということだ。
寝台の上で肌を重ね、魔力を注ぐばかりではなく。
毒物の件だけであれほど苦しそうな顔をしていたのだ。他にもそういうことがあるかもしれず、だけど俺は、そう言ったことにはまったく思い至れなかった。
そもそも、俺を執拗に突け狙う王妃のことだって、動機という意味においては、俺は充分に理解できるのだ。むしろ当然だとさえ思っていて、それでも、鬱陶しいなとは思っている。後はやはりあまりに執拗すぎて、やりすぎとも言えるだろう。
だけど、例えば王妃の件を一つ取ったって、自分の考えはどうやら一般的ではないらしいということぐらい自覚していて。ならば余計に話し合いは必要なのではないかと思った。
知識のすり合わせは重要だろう。
じっと、いつの間にかラルを見つめ続けてしまっていた俺は、気を取り直して、口を開くことにした。
「ラル。今後、今回のようなことがないように、俺たちには知識の共有が必要なのではないかと思う。だから、お互いのことについて、教え合わないか?」
そんな今更過ぎる提案をするために。
俺の言葉を聞いたラルは一瞬前の俺と同じように、驚きゆえかぱちりと一つ瞬いて。次いで今度は辛そうではなくふわと笑った。
「そうだね。確かに僕達は、お互いのことを知らなさすぎるのかもしれないね」
ラルの表情と言葉に、どうやら先程までのラルの苦しみは、払拭されたようだと俺は内心で安堵の息を吐く。こんな風に笑うラルは、やはりかっこいいな、そんなことを思いながら。
そっと改めて俺の隣へと腰かけたラルに、オーシュとディーウィはそれ以上に何か、声をかけることはなく、ただ俺たち二人を見守るばかりなのだった。
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