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62・毒物⑤
しおりを挟むそれらをようやく理解したのは、ナウラティスに行ってからだ。それまでは本当に、俺はいろいろなことをよくわからないままに過ごしていて。
だから余計に伯父には感謝している。
俺は当たり前に痛いのも苦しいのも好きではないし、苦しみたくもなければ、痛みだって感じたくはない。
だからこれまで、そんなものは感じずに済むように、もし痛いや苦しいがあってもすぐにそれらを失くしてしまえるように対応してきたのである。
痛い理由が傷などなら治せばよかったし、苦しいのも同じだ。
だけど、俺以外の誰もがそれが出来るというわけではないのだという。
少なくともディーウィもオーシュも、毒物を食べながら変化させるだなんて、そんな器用なことはできないと以前言っていた。
ちなみに、伯父の返事は、
『うーん、出来なくはないね。でも毒なんて、わかった段階で変えちゃえばいいじゃない。わざわざ口に入れる必要ある? 触ればいいんだから、口に入れなくても出来るでしょ』
で、なるほどとひどく納得したことを覚えている。ただ、それ以降も俺はつい癖で、食べながら変化させてしまうのだけれども。
だから毒物だなんて、本当に大したことではないのだ。
ディーウィやオーシュ、それにラルが、こんな顔をするようなことではない。
例えば俺が、毒物の対処などできないというのならまだしも、そうではないのだから。
ラルは、俺の言葉を聞いて、苦しそうに首を横に振った。
その様子は、俺には憤りの持って行き先がわからないと、そう告げているかのように見えた。
掴まれたままの両腕は放してもらえていない。
「フィリス……それは決して、誰でも出来ることではないし、少なくとも僕は、そんな話聞いたことはない。毒物を変化させられる? 解毒魔法ではなく? いや、たとえ毒物が君に対して効果がないのだとしても、そういうことじゃないんだ。問題は、君に毒を盛るような人物がいて、実際に君はそんなことをされているという事実の方なんだよ」
ラルの声には苦みが混じっている。
ちらとオーシュを見ると、そうだそうだとでも言うかのようにうんうんとそれでも苦い顔のまま頷いていた。
ディーウィは変わらず微笑んだまま。
なるほど、先程オーシュが怒っていたのももしかしてこれなのかと俺はようやく理解した。
毒物など、効果がなく、問題とならないから構わない、のではなく、そんなことをされている事実がこそが重要なのだと。
とは言え、俺にはだから何なのかという所まではわからないままだったのだけれど。
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