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55・結界①
しおりを挟む別に咎めたてるようなことでも、気を悪くするようなことでもない。
むしろこの屋敷の主人はラルなのだ。どの部屋に入ろうが咎める者など誰もおらず、無作法も何もないだろうとそう思った。
「この屋敷はやはり君たちにとって、心もとなく思えるものなんだね」
言いながらラルが、少しばかり気まずそうな様子を見せる。
「あ~……正直に言うと、そうだな」
答えたのはオーシュだ。
立場を考慮しない気安いオーシュの態度を、ラルは咎めなかった。今更だからなのだろう。
と、言うか、確かにオーシュとディーウィは心もとなく思っているかもしれないが、俺個人としては取り立てて特段そんな印象など受けていない。ただ。
「結界がないのは無防備には俺も感じる」
俺でさえそう感じるのは本当で。この時、俺はようやくこの6年間、ナウラティスからほとんど出なかったからなのか、どうやら感覚ごと、彼の国から多大な影響を受けていたようだと自覚した。
ナウラティスと比べると、確かに無防備かもしれないが、言ってしまえばこんなもの、ナウラティス以外での普通である。
ナウラティスが特殊だというだけの話だった。
「なるほど……ナウラティスではそれほどまでに結界が張られているの? この屋敷で無防備だなんて……なら無防備じゃない状況はどんなものなのか。想像さえできないよ」
よくわからないというラルに、オーシュが一応、視線で俺に了解を求めてきたので頷いたら、改めて説明しようと思ったらしく、ごくごく当たり前の様子で口を開いた。
「ナウラティスの守護結界についてはラル様も知っているだろう? あの結界が大体7重だか8重だかになっているのはナウラティスでの普通だ。特に貴族なんかだとより細かく重ね張りする傾向が高くて、此処のように、全く何の結界も張られていない場所なんて、ナウラティスには存在しない。例外はスラムぐらいのものだろうな」
「7重? 8重? そんなに?」
まさかそんなにも重なっているとは思っていなかったのだろう、驚くラルにオーシュは続けて説明していく。
「ああ。まず、国全体が結界に覆われているのはわかるだろう? その上、何処の領主も領全体をやはり結界で覆っている。その更に内側では町や村単位。その更に内側で地区や区画、で、次は敷地、建物、建物内の一部、そして部屋。ついでに王族なら大体自分自身も改めて結界で覆っている方々が多いな」
これでだいたい7重か8重になると告げるオーシュに、ラルは理解しがたいという顔をしていた。
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