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51・激昂

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 かと思えば次の瞬間にはディーウィは泣きそうに顔を歪め、唇を噛みしめて、オーシュは明確に激昂する。

「おっまえ、それはどういうことだっ! 聞いてねぇぞ! ラル様は知ってんのかよ!」
「今初めて言った。ラルは知らない」

 怒鳴られるのへ、俺は端的に言葉を返した。
 正直な話、怒るだろうとは思っていた。だが、怒って、そしてどうするのだろうか。
 それにそもそも。

「何故そこまで怒るんだ。俺に毒や薬は効かない。異物なんて言わずもがなだ。わかってるんじゃないのか?」

 食事に毒物が含まれていることなんて、言ってしまえば、俺からすれば日常茶飯事だった。
 むしろコリデュアで口にする何かに、何も入っていないことの方が稀だ。
 それは5歳の頃から、ずっと。
 今更それがなんだというのだろうか。
 6年前、ナウラティスに入国して、数年ぶりに何も含まれてない、純粋にただ食べることに支障のない物を口にしたぐらいだったというのに。
 此処がナウラティスでない以上、俺の食事に何かしらが混入される可能性は充分に考えられることだった。
 問題があるとすれば、俺以外が被害にあうかもしれないということ。
 もっとも、その際だって、すぐに俺を呼んでもらえれば、おそらくは問題にはならないのだけれども。
 この二人なら、俺の性質なんて、とっくにわかりきっていると思っていたのに。
 怒るとは思っていた。怒るとは思っていたけれども、ここまで激昂するとは、俺は予想していなかったのだった。

「なんでそんなに平然としてられるんだっ! おっまえ、ほんといい加減にしろよっ、フィリスっ! 俺が何でこんなに怒ってんのか、わかんねぇのかよ!」
「わからん。確かに、防犯という意味では二人にはもう少し早く伝えるべきだったかもしれない。だが、俺の側にはずっとラルがいただろう? ラルがいない時に話し合った方が対処しやすいかと思ったんだ。だから今、こうして話している」

 別にラルに隠しておきたいだとか思っているわけではなかった。ただ、ある程度対応が済んでから報告するのがいいんじゃないかと判断したのである。
 何せ怪しいのはこの屋敷の使用人なのだ。もう少しいろいろはっきりしてからの方がいいだろうと思っただけだった。
 俺としては今、このタイミングで二人に伝えることとなった理由もはっきりしている。此処まで怒られるようなことだとは思えない。
 ただ、今度はオーシュまでもが、辛そうに顔を歪め始めたのを見て、流石に何か俺の認識とは齟齬があるのかもしれないとは思い始めていた。
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