50 / 236
48・確認①
しおりを挟むなお、その反面、いったん食事が終わると、組み伏せられまた魔力を注がれたりするのだが、それはともかく。
俺がようやく寝台から降りるのをラルがよしとしたのは、1週間ほどをそんな風にして過ごしてからのこと。
ようやく屋敷内の案内をしてくれたのだが、ずっと俺に寄り添い続けるラルは、仕事などはどうしているのだろうかと疑問に思った。
どうも、もちろん、仕事はあったし、何なら溜まっていたらしいと分かったのはその更に翌日の午後。
例の出迎えてくれた執事のような人……――正しく執事であっているらしい。ラルの父親である先代公爵の頃から仕えている人なのだとか。名をガランサウスと言い、主にラサスと呼ばれているらしい。そのラサスがにっこりと非常ににこやかな笑みでラルを呼びに来たことによって発覚したのだった。
ラルはラサスに追い立てられるようにして、非常に名残惜しそうに俺から離れて執務室に向かっていった。
そして俺は久しぶりにラルから離れて一人になったのである。
やることが何もなかった。
とりあえず、初日に案内されたサンルームのある居間のような部屋でソファに腰を落ち着ける。ディーウィとオーシュが当たり前の顔をして側に控えていた。
他の使用人は気でも使ったのか、どうやら席を外してくれているらしい。3人っきりだ。
俺は腕を組んでしばらく考える。
その下、腹の中、ラルが求めるまま、逆らわずに望んだ子供はすこぶる順調だった。おそらくこのまま何事もなければ、しっかり安定してくれるのは間違いない。
では何を悩むことがあるのか。それは勿論、今、この瞬間、俺にやることが何もないということだ。
退屈が、俺はあまり好きではなかった。何かやることがある方が気が休まる。
ラルは俺に何も求めていないようだった。ただラルの側でラルを受け入れていればいいらしい。勿論、子供が生まれたらそうはいかなくなるだろうとは思う、思うのだけれど。
問題は今だ。今の、退屈この上ない時間。
とりあえず、とこの一週間考えずに済んでいたことに意識を向けることにした。
ラルの家である、このリヒディル公爵邸は、ナウラティスほどとはいかずとも、どうやら安全なようだったので、考える必要がなかったのだ。でも。
「なぁ、オーシュ」
「おう」
「道中、捕らえた連中ってどうなってたっけか」
まさか捕まえたままここまで連れてくるだなんてことは出来なかったので、途中適当な兵士だとかに引き渡していたはずだ。
「あ~……どうなってたっけなぁ……色々聞きだした後はぼろ雑巾みたいになっちまってたし、ラル様の指示通り、アンセニースの役人に引き渡してそのままだな」
オーシュはいつの間にかラルを、ラル様、なんて呼ぶようになっていたらしい。
ラルの指示だというが、対応としては妥当な所だろう。おそらく今頃は更なる取り調べを受けた後、罪人として裁かれているはず。
「じゃあ、その後、ココに来てからは?」
あえてこの一週間、気付かないふりで口に出していなかったことを訊ねると、オーシュはひょいと肩を竦めた。
「聞きたいか? それ」
「把握はしておいた方がいいかとは思ってる」
「なるほど。じゃあ伝えとくか」
当然、何もないわけがないということだった。
20
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)
ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。
僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。
隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。
僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。
でも、実はこれには訳がある。
知らないのは、アイルだけ………。
さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる