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40・道中⑫
しおりを挟むラルは、俺が何だかもの言いたげになったことの方こそがわからないらしい。
ラルの中ではコリデュアに悪意あるいは害意を持つのは当然のことなのだろう。
ならばいずれにせよナウラティスの結界は通らない。
「リヒディル公爵閣下に分かりやすく言うと、ナウラティスの結界では、物理的な干渉は防げません。防げるのは、あくまでもそれをし得る存在なのです。悪意や害意の含まれない攻撃は防げない。極端な話、例えば狂信者のような、思想の偏った方の行動は、なかなか妨げられない結界となっているんですよ」
俺とラルのやり取りを見ていただろうに全く構わず、ディーウィはにこにこと話を続けた。
ラルも、ディーウィが話を再開したら、俺からそちらへと意識を移していて。ふむふむと興味深そうに聞いている。
「なるほど。聞いているよりも万能ではない、ということかな?」
「そうですね。そう受け取って頂いて差し支えないかと。だからこそナウラティスにはオーシュのような護衛騎士や、兵士などが多く存在しているんですよ。いくら悪意や害意を防いでも、それで全くの安全とは限りませんから。僕は逆に、このナウラティスの結界は得意ではないんです。少なくとも1キロなどという広範囲ではかけられないでしょう」
ナウラティスの結界は他国にとって、よほど分かりにくいものであるらしい。他国では思想防壁とも呼ばれるそれが、ともすれば足かせとなり得ることを俺は知っていた。ナウラティスでは、結界に許容されるか否かが重要視されがちで、それ以外が少々おざなりになる傾向が高いのだ。国内にいる間はいいだろう。だが、彼らが一歩国から出てしまうと……――ナウラティスの国民は、ナウラティス以外では生きられないと言い換えることもできるのである。
俺は元々、ナウラティス国内では居住していない母から生まれ、13になる年にナウラティスの学園に入るまで、他でもないコリデュアの王城で育った存在だ。
当然結界のことを知ったのも、ナウラティスに留学してからで。正直、ディーウィほど詳しく説明できないのは本当の所だった。
結界そのものは得意なのだけれども。
「得手不得手ということかな。君たちは補い合っているんだね」
感心したようなラルの言葉に、ディーウィは満足そうに微笑んでいた。
「だからこそ、フィリス様の従者たり得ているのだと思っていただけると」
ディーウィがそう締めくくるのに、ラルは深く頷いて、そんなラルとディーウィをなんとなく眺めていた俺に視線を落としたかと思うと、ふわと柔らかく微笑みかけてくれた。
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